呉智英 × 適菜収 【第4回】「『活動的なバカ』が一番危険」
『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

【第3回】はこちらをご覧ください。

橋下徹と全体主義

適菜 プロフェッショナルが軽視される世の中になってきたと思います。世の中にはプロフェッショナルが扱うべき領域が絶対にあるはずです。たとえば、医者の判断だったり、パイロットの判断だったり。患者や乗客が決めてはいけないことがある。そして程度の差こそあれ、これはあらゆる職業に当てはまることだと思うんです。

でも、今の政治もそうだし、原発再稼動をめぐる騒動でも、専門家の意見と素人の意見が並列で語られている。これも凡庸な人間が暇さえあれば発言をするという近代大衆社会の土壌に発生した現象だと思われます。

 それでも俺は、プロはそれほど軽視されていないと思うよ。ジェネラリストスペシャリストという問題があってね。儒教文化圏ではスペシャリストがずっと軽視されている。君子(指導者)はジェネラリストという発想がある。個別の技術よりも、徳により全体を束ねるものが社会の指導者層だという意識がある。これも善し悪しで、支那でも朝鮮でも職人はさほど重視されない。

適菜 国民投票や住民投票を採用しようという発想は、プロフェッショナルとしての政治家の軽視でしょう。首相公選制や裁判員制度もそうです。医者や学校の先生にもかつてのような権威はないでしょう。医者が患者にセカンド・オピニオンを勧めるような時代ですからね。これは職業倫理や責任の問題ともつながっていると思います。

 近代以後は、多くの学歴エリートは医者になったね。今でも地方の素封家の息子はたいてい医者だったりするので、エリート形成としてはある時期まで意味があったと思う。今はエリートというと金持ちで女にもてるだけで、責任感はないよね。

現場の医者に聞くと、モンスター・ペアレントならぬモンスター・ペイシェントみたいなのがいて、わけのわからない苦情を言ってくるらしい。病院に行くと、「暴言、暴行お断り」と貼り紙がしてあったり。

適菜 だから権威の喪失なんです。

【ジェネラリスト】
広範囲にわたる知識や技術を持つ人。

【スペシャリスト】
ジェネラリストの対義語。特定分野について知識や高い技術を持つ専門家。

【儒教】
春秋時代の思想家・孔子を始祖とする、仁と秩序を重んじる思想の体系。中国から東アジアを中心に展開され、『論語』の伝来とともに日本文化にも多くの影響を与えた。

【素封家】
財産家、大金持ちの意。「封」は治める領土を示し、つまり領土は持たずとも、諸侯を凌ぐほどの力、財産を持っている人を指した。出展は『史記』の「貨殖列伝」とされる。
愚民文明の暴走』
著者=呉智英/適菜収
講談社 / 定価1,404円(税込み)

◎内容紹介◎

「民意」という名の価値観のブレそのままに、偽善、偽装、偽造が根深くはびこる現代ニッポンはこれからどこへ向かおうとしているのか? いったいいまの世の中において正しい考え方とは何なのか? 民主主義・人権主義の偽善について警鐘ならしつづけてきた評論家・呉智英と、「B層」をキーワードに、大衆社会の落とし穴を指摘し続けている気鋭の哲学者・適菜収が、現代ニッポンの「病の姿」を赤裸々にあばき、その解決法について徹底的に論じ尽くす。

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