『総力戦 (現代の起点 第一次世界大戦 第2巻)』by 出口 治明

レビュー:出口 治明

このほど、岩波の「現代の起点 第一次世界大戦」全4巻が完結した。第1巻は世界戦争、2巻は総力戦、3巻は精神の変容、4巻は遺産、と名付けられ、夫々約10編の論文から構成されている。今年はサラエボの銃声からちょうど100年、いかにも岩波らしいオーソドックスな取組である。各巻ともとても面白く、改めて大変勉強になったが、ここでは主に「第2巻総力戦」を取り上げたい。

第一次世界大戦は、前線と銃後の区別をなくした初の総力戦であったとよく言われるが、アメリカを除くと両陣営の総力は1913年の時点ではかなり均衡していたことがよく分かる。

また、この表を見ると、突出した国力を持つアメリカが連合国側についた時点で勝敗の帰趨が決着をみたこともよく分かる。第一次世界大戦は、死者数においてもこれまでの戦争とは文字通り桁違いである。フランス革命&ナポレオン戦争の約440万人に対して第一次世界大戦は約2600万人(因みに第二次世界大戦は約5000万人)しかもその半数は文民であった。

私たちは、第一次世界大戦と言えばレマルクの名作「西部戦線異状なし」を想起する。本書では、2人の兵士が取り上げられる。西部戦線で死んだアイルランドのナショナリスト、ウィリー・レドモンドと、バルカン戦線で戦った英国の女性兵士フローラ・サンデスである。2人は大戦をいかに戦ったのか。第1巻ではインド人兵士、第3巻では兵士としてのマルク・ブロックが描かれているが、英独仏を主軸としたヨーロッパの戦争でありながら、ありとあらゆる人々が全世界から動員されたのである。大戦の遺産が世界に波及するのはけだし当然であろう。日本も参戦し、中国との長い確執のスタートとなる21か条要求を行っている。

キケロによれば、戦争の鍵を握るのは「尽きることのないカネ」であった。戦費は英国の192億ドル、ドイツの186億ドル、アメリカの122億ドル(うち貸付金97億ドル)、フランスの101億ドルと続き、総額では両陣営合わせて806億ドルに達する(これは歳出総額の6割強を占める)。戦費の財源をみると、公債がほとんどである。戦費の長短公債依存率は英国で69.2%、ドイツ81.1%、アメリカ79.5%、フランス76.1%となる。大戦は「公債の民営化」によってはじめて継続可能となったのであり、一般の人々は小口化された公債を銀行や郵便局の窓口で購入したのである。

このシリーズでは、論文と論文の間にいくつかのコラムが挟まれている。たかがコラムと言うなかれ。とても面白くかつレベルが高いのだ。例えばゴータ爆撃機。ゴータという町で作られたドイツの双発の爆撃機がロンドン空襲を初めて成功させた。その約1ヵ月後、ドイツに起源を持つ英国の王室は(ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世は英国のヴィクトリア女王の直孫)、家名をそれまでのザクセン=コーブルク=ゴータ家から現在のウィンザー家に変更したのである。何という早業。あるいは適応力。歴史は本当に面白い。第1次世界大戦に興味を持つ全ての人に読んでほしい4巻シリーズだ。

総力戦 (現代の起点 第一次世界大戦 第2巻)
作者:山室 信一、岡田 暁生、小関 隆、藤原 辰史
出版社:岩波書店

内容紹介
人類史上初の総力戦―その帰趨を決したのは、狭義の戦力というよりも、各交戦国の政治力や経済力や技術力、いわゆる国力の優劣だった。鉄鋼、資金、労働力 から人の心に至るまであらゆる「資源」が動員された大戦では、兵士はもちろん、銃後の人々もまた戦争を生きぬく当事者となった。戦場、銃後、収容所に映る 総力戦の諸相を考察し、大戦の総体性に迫る。

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内容紹介
『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』『ランドセル俳人の五・七・五』等、書評サイトHONZのお薦めレビューを集大成。