賢者の知恵
2014年08月13日(水)

呉智英 × 適菜収 【第2回】
「フランス革命は、市民革命でもなんでもない」

『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

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【第1回】はこちらをご覧ください。

フランス革命の欺瞞

適菜近代啓蒙思想家と呼ばれる人たちがいます。彼らは学問として国家を扱ったわけです。でも、実際の国家は揺れ動いているものですから、一度抽象化し、あくまで思考実験として国家について考えた。民主教の教祖とされるルソーでさえ、民主主義を現実には選択できないことくらいはわかっていたわけです。

でも、それがイデオロギーになると暴走する。ルソー信者のロベスピエールみたいなのが出てきて、妄想を現実に反映させることを正義だと信じるようになる。左翼は一般的にバカですけど、それは学問的な一貫性を実社会に反映させることができると信じているからですね。

 優等生バカ、あるいは原理主義バカだね。

適菜 そうです。それと、もう一点、近代啓蒙思想の危険性を指摘する言論もヨーロッパにはありました。フランス革命を批判したバークでも、ヨーロッパ最大の知識人ゲーテでも誰でもいいのですが、キリスト教的な歴史観の上に形成された近代啓蒙思想の危険性を見抜いていた思想家は、山ほどいたわけです。まともな思想家、哲学者はほぼ例外なく民主主義を否定しています。

しかし近代日本は、その片面しか受容しなかった。それで近代啓蒙思想に毒された人たちが戦後社会を形成していくわけです。日本では日本特有の形で近代が暴走するようになった。三島由紀夫はこの事象を「近代史の読みとばし」という言葉で正確に説明しています。

私は「近代と戦ってきた思想が現に存在するわけですから、まずそれを読みましょう」「もし今の世の中がおかしくなってきたと感じるなら、そろそろ冷静になって古典を読みましょう」と提唱しているんですけど。

【近代啓蒙思想】
18世紀フランスの社会・政治思想。人間の理性、市民の権利を信奉した。

【ジャン=ジャック・ルソー(1712~1778)】
フランスの哲学者、政治学者。個人の自由を尊重し、共同の利益に資する人民の意志を表す概念「一般意志」を提唱した。著書に『人間不平等起源論』『社会契約論』など。

【マクシミリアン・ロベスピエール(1758~1794)】
フランス革命期の政治家。ジャコバン派の指導者。人工神「最高存在」を発案し、その国家的祭典を挙行した。清廉だが狭量な性格の理想主義者として知られる。

【フランス革命】
18世紀にフランスで発生した革命。封建制が崩壊する一方、ロベスピエール派により反革命派の多くが粛清されるなど、恐怖政治を招いた。

【ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ(1749~1832)】
ドイツの詩人、作家、政治家。『若きウェルテルの悩み』『ファウスト』など。自然科学の分野でも功績を残した。またヴァイマル公国の宰相として文教政策を推進するなど、知の巨人として知られる。

【三島由紀夫(1925~1970)】
小説家、劇作家。『仮面の告白』『潮騒』『金閣寺』などの作品で、戦後日本の文学界に大きな足跡を残す。晩年は政治活動に傾倒し、左翼革命への対抗を旨とする「楯の会」を組織。1970年に自衛隊市ヶ谷駐屯地にてクーデターを呼びかけ、割腹自殺を遂げた(三島事件)。
愚民文明の暴走』
著者=呉智英/適菜収
講談社 / 定価1,404円(税込み)

◎内容紹介◎

「民意」という名の価値観のブレそのままに、偽善、偽装、偽造が根深くはびこる現代ニッポンはこれからどこへ向かおうとしているのか? いったいいまの世の中において正しい考え方とは何なのか? 民主主義・人権主義の偽善について警鐘ならしつづけてきた評論家・呉智英と、「B層」をキーワードに、大衆社会の落とし穴を指摘し続けている気鋭の哲学者・適菜収が、現代ニッポンの「病の姿」を赤裸々にあばき、その解決法について徹底的に論じ尽くす。

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