呉智英 × 適菜収 【第1回】 「バカが好む民主主義というイデオロギーについて」 『愚民文明の暴走』(講談社刊)第一章より抜粋

2014年08月11日(月)
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普通選挙はもう止めよう

 俺は普通選挙を止めて、選挙権を免許制にしたほうがいいという原稿をある雑誌に書いたんだ。普通選挙制度はポピュリズムの弊害について想定してないんだよね。権力の相互抑制の仕組み、三権分立みたいなものはあるけど、一番大事な主権について考えていない。

適菜国民主権はもちろんフィクションです。それは建て前であり実際には選良、専門家やプロフェッショナル、職人が判断を下しているわけです。

 つまり代議制だね。

適菜 そうです。それと行政と司法も専門家の集団です。こうした常識が近代においてかなり薄れてきてしまった。その結果が、大衆社会の暴走です。たとえば参議院は「良識の府」と呼ばれています。参院議員に必要なのは良識です。それでは、選挙で良識を選べるのかという問題がある。

多数決の根本にあるのは反知性主義でしょう。一人のソクラテスより二人の泥棒の意見を採用するのが多数決です。そうすると、多数決で良識を選ぶというのはかなりおかしな話になる。

 それは、適菜君の言ったとおりで、良識なるものは選挙制度にふさわしいのかというのは根本的な問題なんだ。代議制はそのまま国民の意見を反映するわけにいかないから専門家を選ぶということだが、そうすると国民主権でもなんでもなくなるよね。

適菜 だから少なくとも、参議院では民主選挙をやってはいけないはずなんですよ。そもそも、なぜ議会を二つに分ける必要があるのか。それは民意を反映させる下院と、その暴走を防ぐ上院という役割分担があったわけで。かつての貴族院も当然非公選です。

でも今は、「政治にはスピードが必要だ」「参議院は衆議院のカーボンコピーになっているから廃止しろ」などとバカなことを言い出す連中がいる。参議院のあり方が歪んでいるなら、本来のあり方に戻すべきなのに、まったく逆のことをやろうとしているわけですね。安倍晋三は「憲法を改正して一院制にしろ」などと言っていますが、こういう人間が首相になってしまうのが、大衆社会の恐ろしいところです。

エドマンド・バークが指摘したように、上院は人民の代表になってはならないのです。バークは、フランス革命の失敗は、「元老院あるいは、そのような性質の機構を設置することを忘れたことにある」とも批判しています。現在の日本では、国家の一貫性を維持するための機構、あらゆるセーフティーネットが、民主主義とポピュリズムにより解体されようとしている。

【新進党】
1994年、村山富市内閣の発足を契機に、小沢一郎が代表幹事を務めていた新生党をはじめ、一部公明党、民社党など野党が結集して発足した政党。党内対立が続き、九七年に解党。

【普通選挙】
身分、性別、学歴、信仰、財産などによる制限なしに、年齢により等しく選挙権と被選挙権を認める選挙制度。男性だけが選挙権を持つものを「男子普通選挙」と呼び、その他の制限が設けられたものを「制限選挙」という。

【三権分立】
立法権(国会)、行政権(内閣)、司法権(裁判所)の三権を独立させ、均衡をはかることによって権力の乱用を防ごうとする原理。

【国民主権】
国家の最高権は一般国民にあるとする基本原理。日本をはじめ、多くの民主国家において憲法により規定されている。

【代議制】
国民が選んだ代表者により組織される議会を通じて、その意思を国家運営、政策に反映させる政治制度。間接民主制、代表民主制も同義。

【ソクラテス(紀元前469~紀元前399、生年に諸説あり)】
古代ギリシャで活躍した「哲学の父」。無知を自覚するところから知の探求を始める「無知の知」、問答により知識の構築を促す「産婆術」などで知られる。

【安倍晋三(1954~)】
現内閣総理大臣。2006年の第一次安倍内閣発足以前から憲法改正を訴えており、14年5月以降、集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲についての議論も物議をかもしている。

【エドマンド・バーク(1729~1797)】
英国の政治家、思想家。「保守主義の父」と呼ばれる。代表作に『フランス革命の省察』。
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