プロ野球異聞録 転向——「小さな4番打者」ヤクルト・雄平の決断 入団から7年、投手を捨てた……

ダルビッシュが尊敬し、エースとして将来を嘱望された男。しかしプロ入り後、ストライクが入らず「投手失格」の烙印を押される。苦悩の末「打者転向」を決断した雄平の波乱万丈の人生を追う。

プロでは通用しない投手

いま、日本プロ野球界でいちばん「面白い」選手は誰か。それはおそらくこの男だろう。

高井雄平、30歳。登録名は雄平、ヤクルトの「小さな4番打者」である。

先日行われたオールスターゲームで、雄平は両リーグでただ一人、2試合ともフル出場。甲子園の第2戦で楽天・福山博之から痛烈なライト前ヒットを放ち、ヤクルトファン以外にも「顔」を売った。

セ・リーグのベンチでは雄平のヒットに、阿部慎之助や鳥谷敬ら「WBC組」からもこんな言葉が漏れた。

「アイツはホント、思い切り振るよな」

「見ていて気持ちいい」

5月28日の交流戦、対日ハム戦で大谷翔平から放った一発も鮮烈だった。1点リードの4回、大谷の投げた初球の152㎞を流し打ち、大きな放物線を描いた打球はレフトスタンドに突き刺さった。打たれた大谷が呆然と見送る「意外性の」ホームランだった。

逆転された8回には、リリーフの石井裕也から値千金の同点ホームランを、今度はライトスタンドに叩き込む。「今年のヤクルトに雄平あり」を強烈に印象付けた試合だった。

オールスターでは解説を務め、チームメイト、監督として雄平を見続けてきた古田敦也が言う。

「バッテリーを組んでいた時、アイツのとんでもないワンバウンドを必死で止めていたことが懐かしい(笑)。ストライクが入らず、投手としてやっていけるか悩んでいた時期をよく知っているだけに、いまの雄平の姿を見ると本当に感慨深いよ」

古田の言う通り、雄平はすんなり「打者」として開眼したわけではない。12年前、18歳でヤクルトに入団した時の雄平は「投手」。古田が続ける。

「捕手として、監督として、僕は苦しみ続ける雄平を見てきた。アイツは本当に真面目に練習をする。打者に転向してからも、誰にも負けないくらい努力を続けてきたのでしょう」

東北高校時代は、エースとして2年生の春に甲子園に出場。MAX151kmのストレートと高速スライダーを武器に、高校№1左腕としてプロの注目を集めた。