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中国よ、韓国よ、君たちが間違っている第1部 橋爪大三郎×津上俊哉 全うな国になる日はいつ?習近平も中国人もどうかしている
「反日」の真実「悪いのは日本じゃないよ」世界はみんな知っている 
〔PHOTO〕gettyimages

日本にとって再び悩ましい夏がやってきた。戦後69年も経って、いまだ中韓で喧しい歴史問題。われわれはどんな心構えで対処すればよいのか。専門家の対談と、欧米人の直言の2部構成でお届けする。

橋爪 習近平政権を「反日」と見る日本人が多いですが、中国は内政も外交も問題山積で、とても日本を相手にしている余裕などない。そこで「厳しめ」に出ているだけだと思います。

津上 同感です。

最近の集団的自衛権行使容認の閣議決定を機に反日攻勢を強めたと言われますが、実態はかなり自制的で、国内向けアリバイ作りの面もあります。

そもそも、靖国参拝を機に「安倍首相は歴史修正主義者だ」という見方が国際社会に広がりました。中国にとってまたとない有利な局面でしたが、最近風向きが再び変わりました。中国が南シナ海の石油採掘で、ベトナム船を蹴散らすような狼藉をしたことは「乱暴者・中国」という見方を国際社会に広めました。

5月末にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議では、安倍首相と中国出席者が宣伝を応酬しましたが、安倍首相の講演が好評を博し、中国はずいぶん旗色が悪くなってしまった。

橋爪 一連の行動を、アグレッシブでルールなどなきがごとき「中国人気質」の表れと見るのは誤りです。中国の人びとは、自己主張が強いわけでも、秩序を守らないわけでもない。彼らの行動様式は、歴史の蓄積の中で育まれたもので、それなりに合理的で秩序だったものです。

ただ、日本や欧米とは基準が少し違う。李克強首相のエリザベス女王謁見に対する風当たりもその相違からくるものではないでしょうか。

津上 官僚出身の私から見ると、女王謁見の一件は役人のごますりの産物です。

国務院弁公庁あたりは、外交部に「盛大で格式高い訪英にしてくれ」くらいは言うでしょう。そこから先、官僚機構の中で起きることは推測できます。外交部も駐英大使館も相手や外は見ずに、中と上ばかり見て「女王謁見は必達だ」と強引に交渉する。英国が渋々応ずると、「女王もお喜びです」と中で報告が上がる。

しかし、蓋を開けてみると、李克強と中国の評判が落ちた(笑)。何をやっているやら、ですが、官僚組織にはママある「悲しい性」です。

橋爪 国際的な風当たりが強まり、経済成長もスローダウンしていくと思いますが、今後も中国のプレゼンスが巨大化していくのは間違いありません。

中国は経済的、政治的、軍事外交的に圧力を加え、従来のパワーバランスを変えていこうとするはずです。なぜなら、従来のパワーバランスは、中国にとって不本意なものだからです。東アジアの現状は中国が封じ込められていた時期にできあがった。中国にしてみれば、我慢している状態なんです。

中国を警戒する周辺国はネットワークを築いて中国に備えようとする。中国は各国と個別にパイプを作ってそれを切り崩そうとする。でも、思うようにならない。それら小さな周辺国の背後にアメリカが控えていて、各国の足並みが乱れないようにしているからです。中国がいろいろ仕掛けても、あるところまで行くとアメリカが出てきて押し戻される。日本も、そのアメリカが押し戻す力をバックにして、中国と対応していくのが賢明です。

この力学の中で、中国がもっとも気にかけているのが、台湾だと思います。アメリカも「台湾問題は中国の国内問題」だと認めてはいる。でも、台湾が中国と一体化する目途は立っていません。

津上 中国が中台一体化の道筋として描いているのは「まずは経済から」という方法です。

そこで'10年に中台間のECFA(両岸経済協力枠組協定)が締結されたのに引き続き、今度はサービス分野に関する中台の自由化を進めようと思ったら、中国に対する警戒感から台湾中が大騒ぎになってしまった。経済的な融合も簡単には進みそうもない。

橋爪 中国はいま、クリミアの事例を熱心に研究しているはずです。ウクライナの一部だったクリミアで住民投票をしたら「ロシアに編入してほしい」という意見が多数を占めた。そこでロシアはクリミアを編入し、アメリカもEUも反対はしたけれど、武力介入はしませんでした。

台湾の人びとが「中国への復帰」を表明すれば、なおさらアメリカの軍事介入はむずかしい。これがもっとも理想的な道筋です。

中国はそのシナリオを一生懸命考えているはずです。

中国共産党は崖っぷち

津上 一方、中国国内に目を向けてみると、金看板だった経済成長に明らかに陰りが見え始め、習近平政権は非常に厳しい現実に対処せざるを得なくなってきています。

実は習近平が国家主席に就いてから中国には4つの大変化がありました。

1つは、以前は集団指導の建て前だったのに、完全な習近平ワントップ体制になったこと。

2つ目は、前例のない反腐敗闘争を展開していることです。

3つ目は、昨年11月の共産党の重要会議「三中全会」で打ち出した大きな改革案です。経済改革だけでなく、地方政府から司法権を取り上げる改革案も含まれています。そして4つ目が、事実上の戒厳令と言えるほどの厳しい言論弾圧。

4つの変化は、いずれも中国共産党が「八方塞がり」になり、「体制は存続の崖っぷちにある」という危機感を抱いたことが原因です。経済の成長も見込めない、社会問題は山積するばかり、では国民から見放されてしまいますから。

橋爪 改革開放を掲げて社会主義市場経済を進めてきた手法が、賞味期限を越えつつあるのは間違いありません。

そこで中国共産党は、一刻も早く次のビジョンを示さなければならない。おそらくそれは、共産党でありながら共産党の政策の根本の部分を捨てることになるはずです。すでに共産党のアイデンティティの7割くらいは捨てていますが、残りも捨てないといけなくなるでしょう。

津上 共産党内で上から下へ指導する単線型ガバナンスの仕組みが社会の進歩についていけていません。

橋爪 共産党の統治のポイントは、「党が国家を指導する」ところにあります。

実は中央党校(中国共産党の幹部教育機関)では、連邦制や多党制を含むあらゆる政治的オプションについて、10年以上前から研究を進めています。「党が国家を指導する」のでない政治体制のオプションも、彼らは選択肢にしている。

習近平が本当に国のことを思うのであれば、共産党より中国を選ぶのでなければならない。

さらに言えば、そのきっかけとして台湾問題が使われる可能性があると私は見ています。台湾に一定の政治的独立を認めつつ、中国に復帰させる。台湾が戻れば、中国国民は熱狂する。一国二制度は、事実上の連邦制なのです。

中国共産党は引き続き存続するにしても、国家が第一で党はその次、という原則を明確にすれば、未来に展望が開けるから、国民の不満も収まるはずです。

ネックとなるのは、中国共産党の過去の成功体験が強すぎること。そして党の幹部が失う利権が多すぎることでしょう。でもこの改革をやりとげないと、習近平は単なる凡庸な指導者として、歴史の舞台から消えていくでしょう。

一方、日本は、首脳会談を開くこと自体は目的ではないので、ジタバタしなくていいと思います。安倍首相が習近平と会えなくたって、別に何の問題もない。

津上 習近平から見ても、安倍首相との会談はリスクがある割にメリットが不確かです。首脳会談の後、安倍首相に再び靖国参拝されたりしたら、習近平には大打撃です。

他方、会談に応じたら、安倍首相の対中批判が止むか。安倍首相は中国の強硬姿勢に変化が見えない限り批判を続けるでしょう。

日中双方は首脳会談より互いにメリットのある閣僚会談などを積極的に進めればよいと思います。北京APEC(アジア太平洋経済協力会議)では首脳会談以外にも、いくつもの閣僚会議がありますし。

橋爪 軍事的には、「中国が強硬に出れば日本が引くだろう」と誤解を与えて、軍事的冒険主義に出る誘惑を中国に抱かせないことが重要です。

そのためには、「日本も即応する態勢があるぞ」と示さなければなりません。これが結果的に、不要な軍事衝突を回避することにつながります。

津上 リーマンショックで世界経済が一気にしぼんだとき、唯一中国だけが4兆元(約58兆円)の緊急財政支出で劇的な経済回復を果たした。この明暗の好対照で、中国は自信過剰になり、日本も中国の力を過大に評価し、恐れました。

でも、それは多分に幻想でした。すでに中国も日本も互いの勘違いを修正する段階に入っていますが、修正が済むまでは日中関係は不安定さが続くでしょう。その間、偶発的事態を予防する双方の努力が必要です。

「週刊現代」2014年8月9日号より

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