「講座:ビジネスに役立つ世界経済」
【第53回】 イギリス経済は「正常」な水準に戻ったのか?

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英経済はリーマンショックの後遺症を抱えている

7月25日に発表されたイギリスの2014年4-6月期の実質GDP成長率は季調済前期比+0.8%(前年同期比+3.1%)であった。イギリスの実質GDPは、2013年4-6月期以降、コンスタントに高い伸びを実現しており、この2014年4-6月期でほぼリーマンショック直前の水準に戻った。

メディアなどの報道では、「リーマンショック直前の水準」というのが、経済が「正常化」したか否かのメルクマールになっている感がある。だが、それは必ずしも正しくはない。通常、「正常」な経済環境の下では、経済(ここでは実質GDPの水準とする)はつねに成長しているはずである。そのため、「正常」な経済の水準とは、「リーマンショックが発生していなかった場合、それまでのペースで成長していたと仮定した場合の実質GDPの水準」と考えたほうが正しいだろう。

イギリスの場合、1992年1-3月期以降、リーマンショック直前の2008年4-6月期まで、実質GDPは平均して年率3.3%程度のペースで成長してきた。しかも、1992年1-3月期以降、好景気・不景気の波がほとんどなくなり、ほぼコンスタントな成長を実現してきた(筆者は、この驚異的な安定成長の理由は、イギリスが1992年よりインフレ目標政策を導入したためではないかと考えているが、このインフレ目標政策がマクロ経済に与える効果については今回のテーマではないので、機会をあらためて言及したい)。

このイギリスの安定的な成長経路が1992年から続いてきたということは、イギリスが、ITブームによる株価上昇や中国をはじめとするBRICs新興市場ブームによる成長率のかさ上げを受けていなかったことを意味している。そのため、リーマンショック直前までのイギリス経済の安定的な成長経路(すなわち、潜在成長率)は1992年1-3月期以降、リーマンショック直前までの平均値である3.3%と考えてよいだろう。

そこで、「リーマンショックが発生していなかったと仮定した場合の実質GDP」を、1992年1-3月期以降、現在にいたるまでコンスタントに+3.3%で成長した場合の実質GDPの水準とみなす。そして、この潜在GDPを元にイギリスのマクロの需給ギャップ(GDPギャップ)を計算すると、2014年4-6月期時点でなんと-20.4%となった。

いうまでもなく、この「-20.4%」というマイナスのGDPギャップはかなり大きなデフレギャップである。これは、イギリス経済が依然としてリーマンショック(及び、その直後に発生した不動産バブル崩壊による金融危機、ノーザンロック銀行での取り付け騒ぎをご記憶の読者もいらっしゃることだろう)の後遺症を抱えていることを意味している。つまり、イギリス経済はこの1年でようやく正常化に向けて動き始めたものの、経済の「水準」でみれば、まだまだ「正常」には程遠いと考えられる。

6月12日、ロンドンのマンションハウスで講演したカーニーBOE総裁〔PHOTO〕gettyimages
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