山田肇×吉川尚宏×町田徹 【第2回】 「新規参入と競争によるバラエティこそ携帯電話には必要だ」
~日本の電波の有効活用を考える座談会~
[左から] 山田肇さん(東洋大学教授)、司会の町田徹さん(経済ジャーナリスト)、吉川尚弘さん(ATカーニーパートナー)

【第1回】はこちらをご覧ください。

競争政策の本質的な課題は電波帯域の割り当て

町田: 総務省が電波利用料を値下げしないのは、組織の論理、官僚の論理で、持っている利権は手放せないという部分が相当大きいんじゃないかと、私がこれまで取材してきた感触として思います。

私が最初に郵政省の記者クラブで取材を始めたのは1993年で、あの当時郵政省の一般会計予算というのは年間500億円くらいしかなかった。ですから、当時から電波利用料というのは郵政省(現総務省)にとって壮大な財源でした。

今でも、ほかの役所と比べたら絶対額は小さいけれど、現在の総務省、旧郵政系の官僚にとっては非常に大きな財源です。加えて歴史的な経緯もあるし、いまさら手放せないという感じになっているんじゃないか。

本来なら電波の割り当てとかそれに付随する電波利用料の使途のあり方とか、時代の要請に従って変えていくべき問題がたくさんある。そこに踏み込まずに、MVNO(仮想移動体通信事業者)とかSIMロック解除とか言い出して、「皆さんのお役に立ちます」とか「スマホの料金が下がります」といった話をぶらさげている。どちらかと言えば、改革の本丸じゃないほうに国民の目を向けようとしているというふうにも言えます。

吉川: SIMロック解除やMVNOというのは決して悪い話じゃない。もっと早くからSIMロックが解除されて、いろいろな端末が出ていたのならばよかったのかもしれない。しかしおっしゃる通り、電波の帯域が競争政策の本質的な課題です。これが機能しないままにSIMロックやMVNOの話がされていて、いろいろ問題が出てくると思いますね。

たとえば今はMVNOをどんどん増やそうとしていますが、MNOとMVNOとの契約形態には相互接続と卸役務という方式がある。相互接続というのは一定のタリフ(料金表)があるわけです。タリフの料金で決まっていると、ボリュームディスカウントが効かない。そうすると小さい事業者もどんどん貸してくれ、と言ってくる。キャリアのほうはどんどんガイドラインに従って値下げをさせられていく。そうなると、これは通信事業者の次に向けた投資力を失わせる政策でもあるわけですね。

投資力との関係で考えると、今のMVNO政策というのは結構ひずみがある。それを是正しないといけません。

町田: 有線の「光回線」は頑張ってきていて、ビット当たりのレートでいうと、世界的に見ても最低水準の安い料金を実現している。つまり、それなりに競争政策がワークしてきました。しかし、無線のほうは有線に比べて相当な後れをとっている。

吉川: 3社あるいは4社それぞれが競い合ってはいるものの、電波の割り当てのような部分に対して、あまりにメスが入っていなかった。実際は、光回線よりも電波をもらったほうがよっぽど市場的に価値がある。にもかかわらず、そこにメスが入っていなかった。

町田: しかも世界的にはそっちのほうが大事なわけです。そこで先進的なことをやっていないというのは、日本が前に進むためには障害になっている。

さきほどから出ているMVNOについて、もうちょっとかみ砕いて説明してほしいんです。この半年、1年くらいの間に、格安スマホというのが登場しました。あれとMVNOがすごく密接に絡んでいるわけですよね。

吉川: 格安スマホをやっている事業者がMVNOという業態です。MVNOの事業者はMNO(移動体通信事業者)といわれるところ大手携帯電話事業者、特にNTTドコモとイー・アクセスなんですが、そこから回線を借りてくるんです。うまく電波を小分けして使うとたくさんの利用者を収容できるんですね。

MVNOは多くの場合、利用者に1日あるいは1ヵ月当たりの通信量に上限を掛けています。そうでないと、タダで再販するといっても利益が出なくなる。うまく小分けしてある一定のバルク内で収めると、たとえば月額980円とか1,980円で収まるというプランを導入してる。これはある意味では非常に賢いやり方です。

町田: 携帯電話を提供できる会社をつくろうとすると、電波はタダでもらえたとしても普通は基地局だとかネットワーク整備の初期投資がすごい金額になる。それをなくして月々いくらの利用料だけで携帯電話事業に参入できるのがMVNOということですね。ここにきてNTTドコモやイー・アクセスが積極的にそういうものに貸し出すようになったのには何か理由があるとみていますか?

吉川: 相互接続というルールがあるんです。それゆえに、イー・アクセス以外の大手携帯電話事業者3社は二種指定事業者として指定され、MVNOから接続を求められたら、それを拒否できないんです。

先に述べたように、MNOとMVNOの契約形態には卸役務と相互接続と2種類の方式があるんですが、とりあえず今は相互接続の話をしますと、相互接続の料金もどんどん国が作っているガイドラインによって下がってきている。昔に比べると非常に安くなっています。数年前に比べると十分の一くらいに相互接続の料金が下がってきているので、参入はしやすくなっています。

それにプラスして、データ通信はWi-Fiも使いますよね。大半のデータ通信はWi-Fiでやれば、家でよく使う人、あるいはオフィスなどWi-Fi環境で使う人なら、料金を下げようと思ったら下げられます。

町田: イー・アクセスは元々そういうことには熱心な会社だったと言えるけど、小さくて影響力があんまりなかった。NTTドコモの態度がかなり変わってきたというのが大きいですね。

ドコモが変わった背景を見ると、長い間iPhoneを売ることができなくて苦しんでいた中で、スマホの競争では勝てないから、自分たちの売るスマホで勝てなくても安売りの会社の卸役務で稼げるならそれで稼いでしまえというNTTグループの大きな経営方針の変更があり、MVNOに積極的に貸し出したのが大きかったんじゃないですか。

吉川: MNOがMVNOに卸すというのは海外では当たり前です。要するに、自分たちで膨大な販促費を掛けてお客さまを獲得するよりは、販促費を少なくして卸して再販事業者に売ってもらったほうが利益率は上がるわけです。

日本でも卸役務でMNOとMVNOが契約することはありますが、MNO各社は卸役務の競争をしていません。ところが海外だったらMNOがMVNOに借りてもらおうと卸すための競争を各社がしている。ところが日本は、残念ながら今までは4社の中で卸役務の競争機能していなかった。本当はそこで競争が起きなければいけなかった。それが起きていなかったというのも大きいと思います。

市場が飽和してきているというのがいちばん大きいんでしょうね。本当は市場が成長しているタイミングで競争政策が入ったほうがいいんです。たとえばMNP(携帯電話番号ポータビリティー)なんて日本はかなり後発でしたし、今回のSIMロック解除も後発だったんです。日本の競争政策は市場が成熟してから入るんですね。

そうなると、あんまり競争が起きないんです。市場が発展しているときに、SIMをいくらでも簡単に交換できるとか、番号ポータビリティーをやったほうが、もっと競争は機能したと思いますね。

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