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山田肇×吉川尚宏×町田徹 【第1回】 「SIMロック解除は携帯電話の競争政策に役立つのか?」
~日本の電波の有効活用を考える座談会~
[左から] 山田肇さん(東洋大学教授)、司会の町田徹さん(経済ジャーナリスト)、吉川尚弘さん(ATカーニーパートナー)

携帯電話業界の「協調的寡占」は3社体制が原因

町田: 7月14日、総務省が携帯電話のSIMロック解除を義務づける方針を固め、そのためのガイドラインをまとめる研究会を立ち上げることを明らかにしました。

では、SIMロック解除で電話代は安くなるんでしょうか。またスマホのSIMロック解除はこれまでも話題になりましたが、本当にそれが競争政策に役立つのか、そもそもどういうところから出てきた話なんですか。その辺りからお聞きしたいと思います。

山田: 以前ナンバーポータビリティといって、他の電話会社に移っても同じ電話番号をそのまま使えるサービスを導入したときも、すごく画期的なことが起きて業界か変わるといっていたのに、実際にはたいした変化が起きなかったですよね。むしろiPhoneという製品を最初に持ったことがソフトバンクという会社を強くしたとか、そういう他の理由によって携帯会社の勢力図は変わったわけです。

SIMロックの解除については、あれは谷脇康彦さんが電気通信事業部の事業政策課長だった時代だから5年ほど前に1回やっている。そのときはNTTドコモは従ったんですが他の2社が従わなかった。だから、もう1回キチンとやろうという、それ自体はいいことですよ。しかし、すでに古くなった話を持ち出し、あたかも競争を促進するかのように見せるというのはおかしいと思うんです。

いま携帯会社は事実上3社体制に落ちついていて、競争が起きていない。その言い訳として「われわれは競争政策をちゃんとやっているんです」と言いたいがために霞が関が持ち出した話としか僕にはみえません。

町田: SIMロック解除については山田先生のおっしゃる通り、何度も導入に失敗しています。谷脇さん以前には、提案した総務省の課長が飛ばされたなんて話もありました。今回、あらためてそれを蒸し返してきました。その間になにがあったんでしょうか。

吉川: 携帯電話の4社体制が実質的に3社体制になったというのが、その間に起きた変化です。よく競争評価のときにHHI(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)という指標を総務省は使っていますが、3社体制と4社体制では指数を見ていても全然違うんです。

シェアが5%程度の小さな会社でも、4社あると競争が働く。ところがそれが3社体制になると、総務省の言葉でいえば「協調的寡占」が起こっている。だから、そこでもう1回競争のメカニズムを入れなければいけない、というのが本来すべき話です。僕からすれば、そもそもなぜ4社を3社にしてしまったのかというところが大きな疑問です。

町田: それはイー・モバイルのイー・アクセスグループがソフトバンクの傘下に入ったという話ですよね。

吉川: はい。しかも、プラチナバンドの700MHz帯をイー・モバイルに割り当てたすぐあとにあの買収が起こっている。そのあとも一悶着ありました。周波数帯を割り当てた直後に他の企業の傘下に入るということに、霞が関内でも憤っている人たちがいた。外部から見ても「誰もブレーキを掛けられないのか」という批判が根底にありました。

町田: もともと4社に平等に周波数帯を割り当てた背景には、「電波は銭金で売るものじゃない。海外では当たり前になっている電波オークションをやらずにタダであげます。その代わり4社でしっかり競争してください」という政策がありました。この件についてはおふたりは役所と戦ったと思うんですが、その当時のお話を教えてください。

山田: 僕らは電波オークションを主張し、民主党政権でオークションが電波法改正案として国会にも上程された。しかも政府提案として上程されるところまでたどり着いたんです。しかし、民主党政権が崩壊したため、それが廃案になってしまった。

そのゴタゴタの間に、700MHz帯と900MHz帯については、まず900MHzを「使いやすい周波数を持っていない」という理由でソフトバンクに与えた。700MHzのときにはソフトバンクの孫正義さんは「私は降ります」とわざわざ言って、それでイー・モバイルに免許が与えられた。しかし、それが終わったあとにイー・モバイルを買収するという手を使って、ソフトバンクは結果的に700MHzと900MHzの2つの周波数帯を得たわけですね。

僕は、孫さんがやったことを批判する気はない。商人としてはえげつなくても稼げるところは全部稼ぐべきです。費用は最小限に抑えるべきだから、オークションには反対でもいいし、今言ったようなトリックを使ってもかまわない。しかし、規制する側が一切何もできなかったのは問題です。今頃になって競争促進を旗印に、総務省がSIMロック解除がどうこうと言い出すのは、やっぱり筋違いだとつくづく思います。

町田: 当時は、もしオークションを導入していたら、1社分の周波数をもらうのには数兆円単位のお金がないと電波を入手できなかった。4社のうち1社、たとえばNTTドコモがもっとも体力があるから高値をつけて全部独占してしまうかもしれないという理由で、全部タダにして各社に撒いてあげたわけですね。

その一方で、ソフトバンクはイー・モバイルを買った結果、本来とてもとれなかった全体の半分の割り当てを安く手に入れることができた、こういうことですよね。

吉川: おっしゃる通りです。あのときは、まさかあとになってイー・アクセス、イー・モバイルが別の会社に買収されることはないと勝手な想定の下で割り当てました。だから、本来は事後的にもしそういったM&Aがあったら、総務省でなければ公正取引委員会がブレーキを掛けるべきだった、と当時から思っていました。

いまソフトバンクがアメリカでスプリントを買って、さらにTモバイルも買うと言っていますが、アメリカの当局は簡単には折れないでしょう。このあとどうなるかはわかりませんが、やっぱり4社体制が3社体制になるという意味を、アメリカの当局はよくわかっている。それなのに、日本ではタダで電波を割り当てて、それを第3のプレイヤーに持っていかれる事態に、どうしてブレーキを掛けなかったのか。

山田: 今のお話につけくわえると、ソフトバンクは国内ではタダで周波数帯をとり、すごく安い値段でイー・モバイルを買ったおかげで、手元資金に余裕がある。だからアメリカのモバイル会社を1社は購入できたし、もう1社も購入できるかもしれない。

それをアメリカ当局の立場から見たら、日本は国内企業に政策的支援をして資金余裕を持たせアメリカの企業を買収させたんじゃないかと、もし日米関係が敵対していたら言い出してもおかしくないことをしているわけです。昔の自動車摩擦と同じような話で、官庁が恣意的に日本国内を市場閉鎖しているわけです。

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