佐藤優のインテリジェンス・レポート---「ウクライナ領空におけるマレーシア航空機の墜落」

【はじめに】
国際情勢が悪い方向に、急速に動いています。

分析メモにも記しましたが、ウクライナ領空におけるマレーシア航空機の墜落事件は、米露関係をいっそう悪化させました。その結果、中東における米露の協調が近未来に実現するのは不可能になりました。イラク、シリア、パレスチナ、ヨルダン情勢の悪化が懸念されます。

イスラエルのガザ進攻(“侵攻”ではなく、あえて“進攻”とします。ハマスのテロ活動を阻止するためには、軍事進攻しかないというイスラエルの主張には説得力があるからです)については、ヨルダンに与える影響が鍵になります。この点については、次回の分析メモで扱います。

イスラエルのガザ進攻、ウクライナ問題について、日本のマスメディアの報道は情緒的です。ウクライナについても、自国を実効支配できていないことを言い訳にするポロシェンコ政権の対応は、国際法的にウクライナが単一国家であるということを否認する効果を持ちます。言い換えると、ドネツク人民共和国が交戦団体としての地位を得ることになります。戦闘状態を終結するためには、ロシアが主張する「ウクライナの連邦化」が、客観的に見ても唯一の現実的方策であると思います。

前号で「現在、精力的に『神学書』の仕上げに取り組んでいます」と報告した『人間への途上にある福音――キリスト教信仰論』(ヨゼフ・ルクル・フロマートカ著、平野清美訳、佐藤優監訳、新教出版社)の翻訳が完成しました。7月25日発売、税込3780円です。高価ではありますが、値段に釣り合う内容であると自負しています。この本を翻訳することを目標にしたのは、私が同志社大学神学部2回生、すなわち20歳のときのことですから、34年かけてようやく目標を達成したことになります。このメルマガの読者のみなさまには、私の考えを深いところで知っていただくために、ぜひ、手にお取りいただければと思います。
ウクライナでみつかった墜落したマレーシア航空機の一部---〔PHOTO〕gettyimages

【事実関係】
7月17日午後4時20分(日本時間午後10時20分)ごろ、マレーシア航空MH17便(ボーイング777)が、ウクライナ東部のドネツク州領空からロシアに入る直前に連絡を絶ち、墜落した。

【コメント】
1.―(1)
マレーシア航空機は、高度約1万メートルを飛行していた。事故ではなく、何者かによって撃墜されたものと見られる。ウクライナ政府は墜落直後から、「ウクライナ東部を実効支配する親露的な反政府勢力がミサイルでマレーシア航空機を撃墜した」という情報を流した。

1.―(2)
ロシア当局は当初、「撃墜はウクライナ側によってなされた」という憶測情報をリークしていたが、親露派武装勢力は航空機を持っていないし、ロシア空軍はウクライナ領内で展開していないので、ウクライナ軍が地対空ミサイルを発射することには合理性がない。

2.―(1)
7月17日、モスクワ郊外のノボ・オゴリョボの大統領別荘で行われた経済関係会合の冒頭で、プーチン大統領は参加者に1分間の黙祷を求めた後、「この関連で、あの地が平和だったならばこのような悲劇は起きなかったことを指摘する。いかなる場合においても、ウクライナの南部と東部で戦闘行為を再開させてはならない。そして、当然のことながら、この悲惨な悲劇に対する責任は、それが起きた領土が属する国家が負う」と述べた。

2.―(2)
プーチンは、「悲劇に対する責任は、それが起きた領土が属する国家が負う」とウクライナの責任を強調したが、これは、主権国家は領空で起きたことについて責任を負うべきであるという国際法の一般論を述べたにすぎない。プーチンが「ウクライナ側が撃墜した」と主張してはいないことが注目される。

ロシアも優れた電子情報収集能力を持っている。「親露的な反政府勢力が、ウクライナ軍用機と誤認してマレーシア民間航空機を撃墜した」とロシアは認識しているのであろう。

3.―(1)
7月21日、プーチン大統領はビデオメッセージを発表し、「6月28日にウクライナ東部で軍事行動が再発しなければ、この悲劇は、恐らく起きなかったであろう」と述べた。

3.―(2)
ウクライナ政府が、同国東部の反政府武装勢力に対して空爆を行わず、対話によって連邦制を導入していれば、内戦や止んだはずだ。それならば、武装勢力も地対空ミサイルをロシアもしくは武器の闇市場から入手する必要はなかった。

自国の領空を実効支配することができていないウクライナ政府の責任を過小評価してはならない。・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol041(2014年7月23日配信)より