現代新書
特別連載 平成版・南蛮阿房列車 「鉄道の世界遺産」をめぐる旅 第2回 
「車窓に広がる地雷原 」(カンボジア)

小牟田 哲彦 (現代新書『世界の鉄道紀行』)
カンボジア観光の目玉である世界遺産・アンコールワット

「インターネット上に数え切れないほどの個人旅行記が綴られるようになり、活字の紀行作品が旅行の情報源として重視される時代ではなくなった。だが、明治や大正期の紀行文が今も色褪せないように、情報は古くなっても文学は必ずしも古くならない。紀行という分野が文芸の一角を成している所以(ゆえん)である」(「はじめに」より)

日本全国、そして世界各国でひたすら汽車に乗って旅し続けてきた著者による『世界の鉄道紀行』。平成版の“南蛮阿房列車”ともいうべき世界各国の愉快な鉄道紀行を、この現代新書カフェから区間限定で先行運転します。
 第2回は「車窓に広がる地雷原」。カンボジア内戦の爪痕が痛々しい超オンボロ列車の片隅に座った著者は、若干の不安を抱きつつ首都プノンペン駅を出発します。
(地図 板谷成雄、写真・著者)

『世界の鉄道紀行』には、本書でしか読めないレア路線など全20作の紀行文を収録

つい最近まで、カンボジアの鉄道は外国人観光客がまともに乗車できるような代物ではなかった。長年の内戦で鉄道施設は疲弊し、線路内には地雷が埋設されているなど、カンボジア和平の実現後も列車の走行そのものに幾多の難題が存在した。さらに、政情不安の中でやっと走り始めた旅客列車を、武装集団が襲撃して乗客が殺傷されるなど治安上の障害が多く、外国人の利用は長い間禁止されていた。

その世界有数の物騒なカンボジア鉄道が、テレビ朝日系列でほぼ毎晩放送されている『世界の車窓から』に登場したのは、1999年(平成11年)秋のことだった。かつてタイとの直通列車が走っていたシソポン~バッタンバン~プノンペン間338km、上越新幹線の東京~新潟間にほぼ相当する距離を1日半かけて走る模様が、半月以上にわたって放映された。当時、この番組を見ていた私は、いつかカンボジアを旅することがあったら、アンコール・ワット遺跡を見るだけでなく、このカンボジア鉄道にも乗りたいと思っていた。 

ただ、未だ政情不安だった放映当時と異なる現在でも、警護などなく一人で列車に乗る私にはとても真似のできない点がある。それは、プノンペン行きの上り列車に乗車していることだ。放送時の旅客列車は、終点のプノンペンには日没後の午後9時過ぎに到着している。