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Vol.1「民族主義の台頭によって世界のバランスが崩れ始めた」はこちらから途中までご覧いただけます

ロシアと中国の権益拡大の戦術

長谷川: ここからは戦術的な話に入りたいと思います。まず、中国とロシアにとって当面の目標は何だとご覧になっていますか?

宮家: それはまず第一に生き残ることですね。それから第二に、可能であれば「失われた権益」と彼らが信じている民族の権益を取り戻すことでしょう。たとえばロシアであれば、東ドイツとまでは言いませんが、少なくともロシアの周辺の国々はほとんどみんなNATO諸国になってしまったわけですよ。これはロシアにとっては物凄く大きな喪失感がある。

そのNATO化・EU化の魔の手がついにウクライナまで迫ってきたわけですから、ウクライナを中立化させ、NATOやEUに加盟させない、そして可能ならばフィンランド化する、そしてそれができたらその他の隣国のフィンランド化を進めていく。それが彼らの安全保障観です。100%の安全保障では満足できなくて、200%、300%を求めていくと思います。

一方中国の場合は、陸の国境については取る物は取ってしまっていてとりあえず安定しています。彼らが脆弱だと感じているのは海からの脅威に対してなんですよ。なぜ海からの脅威を懸念するかというと、中国の最も豊かで最も脆弱な地域は、天津から深センまで太平洋岸に集中しているからです。

これは簡単に言うと、彼らが必要とするエネルギーと資源と技術とカネ、これは全部海から来る、なぜなら海上輸送のほうが輸送コストが格段に安いからです。そのルートに立ちはだかるのが米海軍と日本の海上自衛隊の日米同盟です。彼らからすれば、今見据えている方向は陸ではなく海であり、それが南シナ海と東シナ海です。

長谷川: 中国もロシアも、自分たちの失われた権益を取り戻す、ないしは自分たちの権益を拡大するために、戦術的に行動しているということですね?

宮家: 必要に応じて戦術的に協力しているということです。

「戦略家にとって経済的合理性は二の次」

長谷川: そうではあっても、やっぱり経済は1945年当時や冷戦期と違って相互依存が物凄く進んでいる。乱暴なことをやると自分たちのほうにもはね返ってくるという根本的な矛盾が起きるわけです。その問題については彼らはどのように考えているんですかね?

宮家: 彼らは戦略的に考えるから、経済的合理性よりも戦略的利益を優先しているということです。エコノミストに戦略が見えない最大の理由は、経済的合理性を前提に考えるからですよ。戦略家には経済的合理性なんて二の次です。だってそうでしょう、経済的合理性を考えたらクリミアに介入するわけがない。

プーチンは戦略的な判断をしたからそれを行ったわけです。おそらく日本のエコノミストだったらそんな判断はしないでしょう。そこが戦略と戦術の違いだと思います。中国も同じように考えている。ですから、今中国が事を起こせば中国経済は相当ダメージを受けるし、そんなことは彼らだってわかっているんです。

でも、それがいちばん重要な問題なのではないし、経済合理性に欠けるからやらないということではまったくないんです。民族の汚名とか屈辱、それから本来あるべき領土、もしくは民族主義、これらは経済的合理性を超える概念なんです。それが民族主義なんですね。

長谷川: その一方で、ロシアが今後30年間にわたって中国に天然ガスを供給するということで両国が合意したと報じられました。これなんかは戦術的な双方の利益だということでしょうか?

宮家: ロシアにとっては、西欧とイスラムと中国が潜在的な脅威なんです。今までは中国との関係はそこそこで、ヨーロッパに対しては我慢して、どちらというとイスラムの脅威、チェチェン問題に注力していたわけです。

ところが、ウクライナに西欧の手が及んでくれば、ロシアとしても対抗せざるを得なくなり、今は西欧の脅威が高まっているわけです。とはいえ他方ではチェチェンが依然として脅威であることに変わりはない。そうすると、今は中国と事を構えるような状況ではない。中国の違法移民がどんどんシベリアに入ってきていても、その問題はプライオリティが低いわけです。ロシアにとって中国はまだ戦略的脅威にはなっていないんです。

だとすると、ロシアがヨーロッパに対抗するために何が必要か。たとえばアメリカでシェールガス革命が起きて石炭の値段が下がってきて、アメリカのシェールガスをヨーロッパが買うようになると、ロシアの天然ガスを買わなくなるわけですよ。それをインドと日本と中国に売る、これがプーチンの今の戦術的な目標です。

長谷川: 先ほどエコノミストが陥りがちな陥穽は、経済合理性を凄く重視してそれを前提に考えることだというお話がありましたが、実は、私なんかもそうなんです(笑)。

宮家: それは失礼しました(笑)。・・・・・・この続きは『現代ビジネスブレイブイノベーションマガジン』vol086(2014年7月23日号)に収録しています。

宮家邦彦(みやけ・くにひこ)---キヤノングローバル戦略研究所研究主幹、外交政策研究所代表、立命館大学客員教授、/1953年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。77年台湾師範大学語学留学。78年外務省入省。日米安全保障条約課長、中東アフリカ局参事官などを経て2005年退官。
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