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「北朝鮮についてはどう思うか? 正直、もうどうしようもない状況になっているのではないか」

今から1年ほど前のことだ。都内にある大きな森の中にある邸宅で、私の正面に座るある人物はこう切り出した。事柄の性質上、それが誰か、その内容が何かを詳らかに述べることは出来ないが、その言葉は私の脳裏に深い余韻を残した。

北朝鮮の巧妙な交渉戦術

そして今。安倍晋三政権は北朝鮮に接近している。「日本人拉致問題」について再調査をするとの北朝鮮側からの約束を取り付け、いよいよそのために北朝鮮側の設置した委員会の陣容が明らかにされたのだという。そして政府当局が行うブリーフィングに従ってであろう、マスメディアはこう書き立てている。

「今回の再調査に際して北朝鮮は本気だ。なぜならば秘密警察として恐怖政治を支えてきた国家保衛部の要人が参加しているからだ」

これを読んで私は余りのナイーヴさに苦笑した。おそらく東西冷戦の真っただ中であればこんなことを書く記者はいなかったであろう。東側の共産体制において独裁は当たり前の現象であり、そこでは「国家」が行う行為のすべては結局のところ独裁者ただ一人の意思によるものだったからだ。東側諸国はあれやこれやと違う顔の交渉当事者を出してはきた。だが、それらは結局のところダミーに過ぎず、演出なのである。

北朝鮮についてもまったく同じことだ。2004年11月、私は藪中三十二アジア大洋州局長(当時。後の外務事務次官)が率いる日本側代表団の一員として平壌に滞在した。日本人拉致問題についての調査結果を北朝鮮側から聞くためだ。その時、北朝鮮側は次のように繰り返し述べたのである。

「拉致問題を管轄しているのは特殊機関だ。特殊機関はその性質上、自らが行ったことの詳細を語らない。その点について日本側も理解してもらいたい」

国交のない日本側には、国際法上、それ以上を要求することができなかった。現場で地団太を踏んだのをよく覚えている。これに対して今度は「国家保衛部」が出てきたというのである。確かに表面的にみると、何か事柄が進展したかのように見えなくもない。

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