二宮清純レポート ソフトバンク外野手長谷川勇也玄人を唸らせる「努力の天才」

週刊現代 プロフィール

これが決勝打となり、ソフトバンクは3-2で勝利を収めた。

本人の解説—。

「それまでの2打席、どうしても打たされるような格好になっていた。自分のタイミングでは打っていたのですが、ちょっとズレが生じていた。

それで、あの打席は狙いを定めていたんです。(レフトフェンスのポール際にある)みずほ銀行と味のマルタイの看板を目がけて打とうと。弾丸ライナーを打つイメージなら、どんなボールにも対応できると思ったんです」

左バッターが左方向に打ち切るには相当な技術が要る。スライスのかからない、いわゆる純回転の打球を放たなければならない。それでなくともヤフオクドームの外野は深いのだ。

「そのとおりです。脇が開いたり、ヘッドが寝てしまっては、あそこに打球は飛びません。自分のポイントまでボールを呼び込んだ上で、しっかり潰す。あとは振り切るだけです」

決勝打を放ってもニコリともしない。打撃の職人としてのこだわりは昨季まで広島のユニホームを着ていた〝孤高のサムライ〟前田智徳を彷彿とさせる。

結果が出ても浮かれない

試合後、一塁側ベンチ裏のミラールームに、この夜も長谷川の姿があった。活躍しようがしまいが、必ず彼はここで素振りやティーバッティングを行う。フォームをチェックし、感触を確認するのだ。この作業は長い日には2時間にも及ぶ。

「バットを振り始めると止まらなくなるんです。一種のスイングハイですね」

苦笑しながら長谷川は語り、こう続けた。

「調子がいい期間というのは、そう長くはない。だから、いい時こそ練習して自分を甘やかさないようにしないといけない。それに(調子がいい時に)練習していれば、悪くなっても最小限にくい止めることができる。結果が出ていても浮かれない、スキをつくらない。常に自分に言い聞かせていることです」

元ホークスのコーチで福岡を中心に評論活動をしている島田誠は「試合後にフリーバッティングをする選手はいても、ティーバッティングをする選手は見たことがない」と首をひねる。

「しかも彼は一球一球、自分でティーにボールを乗せるんです。鏡を正面にして1球打つたびにバットの出し方や手の動きを入念にチェックしている。

普通の選手の場合、3安打でもしようものなら、気分よくパッと飲みに出かけたりする。しかし、彼はノーヒットに終わろうが3安打しようが一喜一憂することなく、黙々と同じ作業を繰り返している。今まで見たこともない選手ですね」