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本社の周りはライバル会社のビールだらけ キリンVS.アサヒ・サッポロ 仁義なき「縄張り争い」
土下座に接待旅行、ついには社長自ら居酒屋まわり

この街だけは譲れない—。企業にとって、本社を構えるお膝元の「城下町」はプライドに懸けても死守するべき場所。東京・中野で勃発した大手ビールメーカー夏の陣、その全容がいま明らかに。

え、本当に社長なの?

東京・中野。新宿の西隣に位置するこの街を舞台に、ビール業界の将来を左右する決戦の幕が切って落とされた。

「あれには腰を抜かしそうになりました。キリンの社長がいきなり店に来たんですから。それも、キリンホールディングス社長の三宅占二さんとキリンビール社長の磯崎功典さんがほとんど日を空けずに、ですよ。

三宅さんははじめ名を明かさず、一般のお客さんとして宴会をしていたんです。なので接客中は特段気にとめたりはしませんでした。それが、店を出るタイミングで『キリンの三宅です』と名刺を差し出してくるんだから、たまげました。逆に磯崎さんは、ふらっと来られましたね。店に入ってすぐに『本社が近くに来たので、よろしくお願いします』と挨拶をしてくれました。キリンのトップ2が顔を見せるなんて、これまでだったらあり得ないことです」(中野で創業50年を超す老舗居酒屋を営む坂井浩人氏・仮名)

この「ビール戦争」の引き金となったのは、昨年5月に、キリンが本社を中野に移転したことだった。それ以降、アニメグッズやコミック専門店が立ち並ぶショッピングモール「中野ブロードウェイ」を中心にサブカルチャー文化を発信してきたこの街は、様相が一変。いまや中野はキリン、アサヒ、サッポロが地域シェア1位の座を巡って熾烈な「縄張り争い」を繰り広げる抗争地帯と化している。

「もともと、中野はアサヒとサッポロの2社が強く、キリンは両社に後れをとっているという構図が長く続いていました。特に居酒屋が密集している中野駅北口周辺の繁華街では、それが顕著だった。どこの店に行ってもアサヒとサッポロばかりで、キリンは苦戦を強いられてきた。とくにスーパードライが大ヒットしてアサヒが国内シェアでもトップに躍り出てからというもの、中野でのキリンの存在感は薄れていく一方でした。キリンにとっては、本社移転が決まったものの、自分たちの『城下町』は他社のビールに取り囲まれている、という屈辱的な状況だったでしょう」(全国紙経済部デスク)

そのなかで、キリンは中野への本社移転を決定した。本誌がキリンビール社長の磯崎氏に直撃取材したところ、「中野のお店に伺ったのは事実です」と認めた上、こう語った。

「私はもともと中野の住民で、長くここに住んでいる。だから、この街のことは熟知しているんです。いまでは、毎朝自宅の書斎から本社ビルを眺めています。個人的には、本社を移転したというよりも、キリンが自分の地元にやって来た、という不思議な感覚です。引っ越してきたからには、できるだけ中野の人と協力した形で仕事をやっていければ、と思っています」

そもそも、キリンが中野に本社を移したのは、グループ各社が都内に点在していたことが理由だった。キリン広報はこう語る。

「弊社はホールディングス、キリンビール、ビバレッジ、メルシャンなどが離れ離れになっていたので、以前から各社のコミュニケーションがとりづらいことが問題視されてきました。それを改善するため、グループ15社、社員約2800人を警察大学校の跡地にできた『中野セントラルパーク』のビルに集めたんです」

現在、国内のビールシェアは、アサヒが約38%で首位を走り、キリンが次いで約35%(2013年時点)。キリンは4年連続でアサヒの後塵を拝し、歯がゆい状況が続いている。しかし、キリンは本社移転前後から、「お膝元」の中野で、これまでの鬱憤を晴らすかのような一大攻勢を開始していたのだ。

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