読書人の雑誌『本』
『向き合う力』著・池上季実子(女優)---人生で屈託なく笑うことは少なかったけど
向き合う力』著:池上季実子 
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今年55歳になりました。すでに子供は結婚して家を出ていますので、ふだんはベランダに置いてあるレモンの木に産みつけられたアゲハ蝶の幼虫の成長に一喜一憂するなど、穏やかな日々を過ごしています。「おひとりさま」として暮らしていると、当然のことながら「おはよう」「おやすみ」といったあいさつをする必要がありません。役者としてのお仕事の事務連絡も、今やLINEやメールで事足りますので、ふと気がつくと、誰ともしゃべっていない日が3日も続いていたこともあります。

ただその分、自分のこれまでとこれからについて立ち止まって考える余裕ができ、それまで見えなかったいろいろなものが見えるようにもなりました。そんな時、「本を書いてみませんか」というお誘いを受けました。担当編集の方からは「池上さんらしい書き方でいいんですよ」とおっしゃっていただき、(私らしさって何だろう)と考えつつ、まずは幼いころに住んでいた京都の思い出から振り返ってみました。

小学校時代から絵画や陶芸が大好きで、それは身近に古美術を置いていた祖父(八代目坂東三津五郎)の影響です。近隣の美術館に朝から閉館までずっといても飽きませんでした。また当時の京都には豊かな自然があって外遊びがとても楽しく、神社の林の中で日がな一日昆虫たちと戯れていました。

ただ実のところ、あまり幸福な子供ではなかったとも思います。元ニューヨーク駐在の商社マンだった父親に虐げられる毎日で、実際、父が私を叱りつける様子を見ていた母は「この子は死んでしまう」と戦慄を覚えたそうです。ですから、夏休みや学校のない日はあまり家にはいたくなく、美術館や野山に出掛けていたというわけです。

そんな身内の恥のようなことにまで、あえて『向き合う力』(講談社現代新書)で触れたのは、今の社会を見れば親による子供への虐待がなくならず、むしろひどくなっているのではないかしらと思えるからです。親がひとたび「危険な勘違い」に陥ったとき子供はどうなるのか・・・・・・ひとつのケース・スタディとして書かせていただきました。

15歳でデビュー以来、決してひとりでお仕事ができたわけではなく、森繁久彌さんや山岡久乃さん、高倉健さん、京マチ子さん、緒形拳さんなど、多くの素敵な先輩方から教えていただいたり、見よう見まねで勉強したりしました。先輩方の何が素晴らしかったのか言葉で言い尽くすのは難しいのですが、印象に残ったエピソードも、今回の本では紹介させていただきました。