作る人はいるが、売る人がいない。ならば自分がそれを担おう---金入健雄(株式会社金入代表取締役/東北スタンダード株式会社代表・青森県八戸市)
金入健雄(株式会社金入代表取締役/東北スタンダード株式会社代表)

今回の主人公は、金入健雄(かねいり・たけお)氏。青森県八戸市に本社を構える年商25億円の文具事務用品会社「金入」の代表である。

南部藩に魚を卸す御用商人から、イワシの油糟などを活用した肥料商を経て、戦後に5代目の祖父母が立ち上げた現業を、2013年10月、弱冠33歳で承継した。

県内5ヵ所の法人向け営業拠点、2ヵ所の文具・書籍店に加え、現在は自らの発案として、八戸と仙台の2ヵ所に東北6県の工芸品やデザイン雑貨を揃える「カネイリ ミュージアムショップ」も運営。これらのミュージアムショップで扱う東北各域の工芸品や、それを作る人々についての情報発信やWeb通販などを手掛ける別会社「東北スタンダード」を2013年9月に設立し、その代表も兼務している。

「サイトを見て弟子入りしたいと言ってきたヤツがいる」

「赤べこに新しいも古いもない。俺が作るのが赤べこだ」。東北スタンダードのサイトには動画や写真を織り交ぜ印象的なインタビューが並ぶ

東北スタンダードは、東北に住まう人々が、厳しい自然環境下の暮らしの中から生み出し、長い年月をかけて磨き、伝承してきた工芸品や技術の魅力を見つめなおすため作られた。サイトには通販機能も搭載されているが、どちらかと言えばメディアとしての色彩が濃い。金入氏自身が、1件1件、丹念に取材した結果が、美しい映像や写真、言葉とともに掲載されている。

たとえば、青森のこぎん刺しや秋田の樺細工、あるいは宮城の常盤紺型染め、岩手の南部鉄器、福島の会津張り子・・・。

紹介される工芸品の中には、作家自身の工夫や金入氏ら東北スタンダードのスタッフとの協働により、現代風にアレンジされ、印象的な佇まいを得たものも多い。

南部裂織を現代的にアレンジした工房澄×カネイリの「KOFU」シリーズはグッドデザイン賞も受賞している

そのひとつが青森県東部で生まれた「南部裂織」を活かした商品群だ。江戸時代、寒冷な気候のため育成が困難であった貴重な綿織物を大切に使いきるために、女性たちが古布を裂いて糸状にしては織り込み、新しい生地として再生し、こたつ掛けや帯、仕事着などとして使ってきた。この裂織の技法を活かしながら、タータンチェックのような大胆な図柄を織り、ペンケースや名刺入れに仕上げた工房澄×カネイリの「KOFU」シリーズ(上の写真)は2013年度のグッドデザイン賞も受賞している。

近年、こうした伝統工芸品の多くは、土産物の片隅でほこりをかぶったり、百貨店で高値をつけケースに飾られたりするのが通例で、一般の人が日常生活に取り入れやすい流通経路を持たなかった。その市場の空白を埋めるようにして、しかも、東北のものに限ってハイセンスな切り口で作り手の技術や想いに迫るストーリーと共に訴求していった金入氏の活動は徐々に耳目を引き、サイトのコンセプトを活かした物産展の開催や講演会への登壇などを依頼されることも増えてきた。

2014年1月に東京・渋谷のヒカリエで行われた「仙台・東北の出張 手しごと展」や、3月に東京・六本木のミッドタウンで行われた「復興デザインマルシェ」などはその一例だ。

至近では9月に始まる山形ビエンナーレの公式ショップ「みちのおく商店」の運営も任されている。自社の店舗、カネイリ ミュージアムショップも年商8,000万円ほどを売り上げ、事業の柱の一つになりつつあるという。さらに10月には盛岡駅前にカネイリ ミュージアムショップの3店舗目を旗艦店の位置づけで出店することが決定している。

商品が売れるようになっただけではない。「東北スタンダードのサイトを見て弟子入りしたいと言ってきた若者がいる」(八幡馬・高橋利典代表取締役)など、かかわった職人衆から、そんな嬉しい反応も聞けるようになってきた。

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