官々愕々「1年後の夏」に向けた布石

7月1日、集団的自衛権行使容認が閣議決定された。しかし、関連法案提出は来年4月だという。あんなに急いだのに何故なのか。その裏にある安倍政権の「国民を馬鹿にした」戦略を読み解こう。

5月15日。赤ちゃんを抱く母親のパネルを使って情に訴え、躁状態で滔々と述べ立てる安倍総理。「(集団的自衛権の議論は)期限ありきではない・・・・・・しっかり与党においても議論して頂きたい」と自信たっぷりだった。しかし、予想外に反対論が強まると、その発言の舌の根も乾かぬうちに、6月22日までの国会会期中という期限を設定。大嘘つきもいいところだが、安倍総理のごり押しに「与党でいたい病」の公明党は全面譲歩、7月1日の屈辱的閣議決定となった。

これだけ急いで強引に閣議決定したのに、今度は全関連法案提出を来春まで持ち越すという。菅義偉官房長官は「約1年かけて・・・・・・しっかり議論を進めていきたい」と言った。開いた口が塞がらない。

閣議決定後の世論調査では、若者層を中心に支持率が下がった。この秋には、九州電力川内原発の再稼動で政府批判が高まるだろう。再稼動反対派と集団的自衛権反対派は心情的に近い。秋の臨時国会で集団的自衛権の議論を始めると、両者が共鳴して10月、11月の福島と沖縄の県知事選が危なくなる。そこで、来年通常国会提出へと変更した。その間に公明党に予算と税制改正で大盤振る舞いをして、関係修復できるという読みもある。

法案審議は予算成立後の4月以降となるが、4月は統一地方選だ。公明党はその直前の集団的自衛権の法案審議は絶対にノー。自民党も公明党の選挙協力を得たいので、審議開始は地方選が終わったゴールデンウィーク前後となる。改正法案は10本以上で会期末まで2ヵ月。法案成立は可能なのか。

実は、それを可能にする3点セットがある。「束ね法・担当大臣・特別委員会」だ。

10本以上の法律、しかも、担当省庁が異なると、各法案を関係の委員会で各々の担当大臣出席のもと審議する。各委員会の開催は週に2~3回。他の法案審議もある。十数本の法律を個別にやるには2ヵ月は短過ぎる。そこで3点セットの登場だ。

共通する政策目標のために複数の法律を改正する場合は、「束ね法案」にして20本でも1本の扱いにする。安倍総理が、「幅広い法整備を一括して行って」と述べたのはこのことだ。同時に、「担当大臣を置きたい」とも言った。安全保障担当大臣を置けば、関係省庁の全大臣の代わりにこの大臣一人の出席で審議ができる。

さらに、安全保障問題を議論するための特別委員会を置けば、関係する委員会での審議を行わずに済む。官僚の経験則では、この3点セットで審議時間は大幅に短縮できる。

これを使って強引にやれば、6月下旬の会期末までの法案成立は十分可能になる。

この7月に発足した北朝鮮の拉致問題に関する特別調査委員会の調査期間は1年以内。来年6月下旬の国会会期末と符合する。法案を強行採決して批判が高まった日に安倍総理が北朝鮮に出発。二日後の羽田。十数人の日本人とともに安倍総理が政府専用機のタラップを降りる。

さらに、消費税増税が実施される来年10月を前に、直前の8月、9月は駆け込み需要で景気が盛り上がる。これで支持率は急回復、その勢いで9月の自民党総裁選での再選は確実。そんなシナリオを考える安倍総理の頭の中にある鉄則はこんなものなのだろう。
「国民は健忘症で愚か。操縦法は二つ。時間をおく、他に目をそらす、それだけで十分だ」

『週刊現代』2014年7月26日・8月2日合併号より

原発の倫理学(税別価格:1400円)
話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。