佐藤優「集団的自衛権の行使は、閣議決定のところでいろいろな制限をつけたのでより難しくなりました」
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol040 文化放送「くにまるジャパン」発言録より
本コーナーは、佐藤優さんが毎月第一・第三・第五金曜日に出演している文化放送「くにまるジャパン」での発言を紹介します。今回は7月4日放送分をお届けします。なお、ラジオでの発言を文字にするにあたり、読みやすいように修正を加えている部分もあります。野村邦丸(のむら・くにまる)氏は番組パーソナリティ、伊藤佳子(いとう・よしこ)氏は金曜日担当のパートナーです。

深読みジャパン

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邦丸: 国の内外の動き、ひとつずつ優さんに伺っていきます。まずは、こちら。

伊藤: 毎日新聞総合面から。「集団的自衛権 主要法案審議、来春に」

政府は昨日(2014年7月3日)、新たな安全保障体制を定めた1日の閣議決定について、集団的自衛権の行使容認に関する主要法案の提出を秋の臨時国会では見送り、来年の通常国会に先送りすることで調整に入ったと、複数の政府・与党関係者が明らかにしました。安保関連の法制の審議が臨時国会で集中すれば、消費税率の引き上げ論議や11月に行われる予定の沖縄県知事選に影響しかねないと判断したようです。

邦丸: 閣議決定されました集団的自衛権の行使容認についてですが、佐藤さんはメディアが報じている見方とはまったく違う見方をされているということです。

佐藤: 私はまったく違う見方をしています。これで、集団的自衛権の行使は、より難しくなりました。

邦丸: 行使するのが、より難しくなった。

佐藤: はい。今までは、集団的自衛権はやらないということになっていたので、個別的自衛権だとか言って、いろいろな屁理屈をつけて、インド洋での給油とか、イラクへの派兵とか事実上、集団的自衛権はやっていたんです。今度は、閣議決定のところでいろいろな制限をつけちゃった。それで、よりやりにくくなった。

例えば、ホルムズ海峡の機雷の除去なんて、一時はやると言っていましたが、もう絶対にできないです。どうしてか。ホルムズ海峡の国際航路というのは、実はオマーンの領海を通っているんです。ですから、国際航路を封鎖するためには、オマーンの領海に機雷を置かないといけないわけですね。国際法上、ある国の領海に機雷を置いたら、それは宣戦布告と見なされるんです。その瞬間、戦闘行為になる。だから、日本は戦闘行為をやっているところに直接、自衛隊を送ることはしないわけですから、ホルムズ海峡には自衛隊は送れないということがはっきりしたわけです。

邦丸: はい。

佐藤: それから記者会見で、「イラクと中東には自衛隊を送らない」と総理ははっきり言いましたよね。だから、これでイラクと中東には派兵しないことになったんです。

邦丸: ふむ。

佐藤: ということは、今までより行使の範囲がぐーっと狭まったんです。ですから、不思議なんですよ。

あの、お母さんと子どもの絵を描かれたパネルを使って総理が記者会見で訴えた――私は「安倍ポエム」と言っているんですが、小保方晴子さんのポエムとどっちが強いか――ことが琴線に触れた人は、「安倍ちゃん、いい」と思った。そうではない人は、「なんじゃ、これは」と思った。われわれのような外交の専門家は、「ありゃ、ありゃ、ありゃ」と思った。

どうして「ありゃ、ありゃ、ありゃ」と思ったのかというと、日本船はもう出せない状態でしょ。アメリカ船というのは、まずアメリカ人を乗せるんです。次にイギリス人を乗せるんです。日本人を乗せるのはその後です。日本はもう船も出せない、ボロボロになった最終段階ということですよね。

ちなみに、北朝鮮だって黙ってやられているわけではありませんから。日本にあるアメリカ軍基地から北朝鮮を攻撃すれば、北朝鮮は日本にミサイルを一発も撃ってこないでしょうか。あるいは、工作員を乗せて小浜や柏崎にやってこないでしょうか。

邦丸: 原発に近い海岸ですね。

佐藤: もし、そういう攻撃がひとつでもあれば、個別的自衛権になるんです。集団的自衛権は関係ないんです。ですから、そこまで事態が進捗すれば、個別的自衛権に決まっているんです。

北朝鮮を想定した集団的自衛権というのも安倍さんの頭のなかで考えた、極めて特殊な観念論の世界ですよね。北朝鮮はそれほど脅威だというのなら、なんで制裁を解除したんですか。

アメリカは、いちばん集団的自衛権でやってほしいのは中東ですよね。しかし「中国近辺で大変なことがあったら、アメリカは来い。でも、中東には頼まれても行きませんからね。べろべろバー」ということを日本はやったわけでしょ。これで本当に日米の信頼関係が強まるのかどうか、非常に心配なんです。・・・・・・(以下略)

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伊藤: 共同通信によりますと、中国の習近平国家主席と韓国の朴槿恵大統領は昨日(2014年7月3日)、韓国のソウルで首脳会談を行い、会談後両首脳は、朝鮮半島での核開発に断固として反対すると明記した共同声明を発表しました。北朝鮮の核問題では、中国側が共同声明で北朝鮮を名指しで取り上げることに難色を示し、会談後の共同記者会見で習国家主席は、6ヵ国協議の再開に向け、韓国が条件整備に努力するよう訴えました。

また、共同声明の付属文書には、旧日本軍の従軍慰安婦問題について、関係機関による共同研究を進めることが盛り込まれました。

邦丸: 米韓と中韓、韓国がいずれにしましても両方から手を引っ張られている感じですね。

佐藤: そうですね。それと同時に、慰安婦問題に関しては付属文書に落とすことによって、日本に「この問題をメインにはしない」というシグナルを送っていますね。日本との関係をきちんとしたいというシグナルです。

それからもうひとつは、牽制です。おそらく日本は北朝鮮との国交正常化に向かっているんでしょう。だから制裁を解除しましたよね。それに対する強い牽制ですね。どうしてかというと、制裁解除の最大のポイントって何だと思いますか。みんな、万景峰号とか、人の往来とか言うんですけど、私はそうは見ていないです。

最大のポイントは、送金禁止の解除ですよ。おカネを送れるようになった。家族のために送金する、あるいは民間のビジネスで送金すると言ったって、それは金一家の生活のために使われていたり、ミサイルや核の開発に使われていたりするかもしれないですよね。おカネに色はついていないから、わからない。

日本は、北朝鮮がミサイル実験を行った直後に「解禁」とかいうことを言っているんだけれど、これはそういう日本に向けた「朝鮮半島の核廃絶を真面目にやりましょうね」というメッセージですよ。ですからその意味において、かなり高度なメッセージを2つ出していますね。

日本は核開発とかミサイル開発の問題が脇に行っちゃって、拉致の問題だけで北朝鮮との関係を考えているんじゃないか。それでは国際秩序という点でどうなのかということを、韓国と中国から大きな疑問をつきつけられた。これは、アメリカも同じ疑問を持っているわけですよ。なかなか気づいていないんですけれど、非常にいま、安倍政権は外交的にコーナーに追い詰められていますね。

邦丸: 誰が追い詰めていますか。

佐藤: すべての国です。

邦丸: 日本を除くすべての国。

佐藤: そうです。これが、われら外交専門家には見えるわけです。強いて言えば、北朝鮮は金正恩が日本の味方です。いま、関係改善をしてくれているから。ロシアのプーチン大統領とは距離ができています。

邦丸: 一時期、関係はよかったですよね。

佐藤: もう、交渉はほとんどやっていないんですよ。ウクライナ問題に関して、安倍政権は玉虫色になっちゃいましたから。ですから安倍政権は、どうも場当たり的に、その場でできることをやって何か点数を取れないかという、つまみ食い外交をやっている感じです。

これがまだ、そんなに国内で可視化されていないのは、とりあえずアベノミクスがうまくいっているという印象が強くなっているからですね。ただ、ここのところ内閣支持率が40%台に落ちてきていますから、ここで経済がちょっと停滞して、支持率も40%前半になると、安倍外交はこれでいいのかという検証が一斉に始まりますね。・・・・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol040(2014年7月9日配信)より

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