佐藤優の読書ノート---国家機能を強化する際に念頭におかれる、国家による「暴力の独占」という側面を記した、時宜に適った本 橋爪大三郎・著『国家緊急権』

読書ノート No.122

◆橋爪大三郎『国家緊急権』NHKブックス、2014年4月

国家緊急権』著:橋爪大三郎
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安倍政権は、国家機能を強化しようとしている。ただし、その場合、国家機能としてもっぱら念頭に置かれているのは、国家による「暴力の独占」という側面だ。この関係で、橋爪大三郎氏の国家緊急権に関する考察は、時宜に適っている。

橋爪氏は、国家緊急権についてこう定義する。

<国家緊急権とは、日本が占領されていない平時において、連合軍最高司令官に等しい超法規的な上級権力を、日本政府が行使するということに相当する。戦いに敗れポツダム宣言を受諾した日本の国民は、連合軍最高司令官の超法規的権限を理解し、それに従った。以来、半世紀あまり、憲法秩序と法の支配になじんだ日本の国民が、政府の国家緊急権を理解し、それに従うかは未知数です。>(120頁)

妥当な定義と思う。そして、国家緊急権を行使して、人権を侵害した国家指導部のその後の出処進退についてこう記す。

<国家緊急権は、民主主義の憲法秩序だからこそ、意味をもつ概念です。専制政治や独裁政治ではそもそも、こんな権限は必要がない。

国家緊急権は、したがって、民主主義と憲法秩序を守るために、行使される。たまたまその機会に遭遇した政治家は、これを運命と思い、誇りをもって、その経験を主権者である人民に、また後世の人びとに証言しなければならない。

喜んで職を辞し、喜んで所属政党を離脱し、喜んで調査特別委員会に出席・協力し、喜んで刑事訴追を受け、喜んで有罪になる。これが政府の長、命令権者であった政治家の、とるべき態度だと思います。

命令を受けて行動した政府職員は、喜んで証言に応じ、すべての真実を包み隠さず明らかにする義務がある。そして、彼らの責任を追及すべきでない。

以上を要するに、国家緊急権は、民主主義と憲法秩序をよく理解し体得した人びとだけが扱うことができる、上級問題。初級問題や中級問題でつまずいているひとは、手をつけないで下さい。しかし、日本の人びとは過去半世紀あまり、民主主義と憲法秩序に慣れ親しみ、充分に国家緊急権を理解できる下地ができていると思うのです。>(171~172頁)

理想論としてはその通りだが、実際には、政治家も官僚も「僕は悪くない」と徹底的に逃げ回り、国民も「圧制者を処刑せよ」と騒ぐであろう。

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・レーニン(宇高基輔訳)『国家と革命』岩波文庫、1957年
・佐藤優『国家論――日本社会をどう強化するか』NHKブックス、2007年
・クルツィオ・マラパルテ(矢野秀訳)『クーデターの技術』イザラ書房、1971年

読書ノート No.123

◆国末憲人『巨大「実験国家」EUは生き残れるのか? 縮みゆく国々が仕掛ける制度イノベーション』草思社、2014年6月

巨大「実験国家」EUは生き残れるのか?』著:国本憲人 税抜価格:1800円 ⇒Amazonはこちら

本書は、EU(欧州連合)の現在を知るための有益な本だ。特に興味深かったのは、グルジアの「バラ革命」がどのように終焉していったかについてだ。

<二〇〇四年、サアカシュヴィリ政権が「バラ革命」の熱気の中で誕生した時、グルジアは西欧型の民主主義国家に生まれ変わると、多くの市民が期待した。実際には、サアカシュヴィリは国内で独断的、強権的傾向を強め、民主化が次第に怪しくなっていった。

一方で、サアカシュヴィリ政権は外交面で「親欧米」「ロシア離れ」の路線を推し進めた。ロシアは激しく反発した。その結果が、二〇〇八年八月の軍事紛争だった。

グルジア領内では、北部の南オセチア自治州と西部のアブハジア自治共和国がグルジアからの独立を宣言しており、いずれもグルジアの統治を離れて駐留するロシア部隊の庇護下に入っていた。ロシア「軍」と言わず「部隊」と呼ぶのは、実態がロシア軍であるものの、「独立国家共同体(CIS)の平和維持軍」という体裁を取っていたからだ。

紛争のきっかけには謎が多い。南オセチアをグルジア側が最初に攻撃したというのが定説だが、その前にロシア側の挑発があったのも間違いない。開戦してみると、圧倒的に武力に勝るロシア部隊の優勢は明らかだった。ロシア部隊は境界を越えてグルジア領内になだれ込み、中部の中心都市ゴリを占領してしまった。

当時パリに駐在していた私は、それから二カ月後の十月にゴリを訪れた。ちょうど、ロシア部隊が撤退する直前だった。カメラを隠してロシア部隊の検問を越え、占領地にあるトゥクビアビ村に入った。たまに響く銃声以外に物音の乏しい世界だった。約五千の人口のほとんどが戦闘を避けてゴリ市内に逃げ出していたからだ。村人の少なくとも十六人が紛争に巻き込まれて死亡し、焼き打ちに遭った家は四十二軒に及んでいた。

紛争によって、自由も、民主主義も、どこかに吹っ飛んだかのようだった。人々は、生活を立て直すことで精いっぱいのように見えた。

こうした中で、大統領のサアカシュヴィリへの支持も急落した。大統領を批判する市民運動が盛んになり、年が明けて二〇〇九年の春になると、連日デモが吹き荒れた。野党勢力は三カ月にわたって市内中心部の国会前の大通りを封鎖し、テントに立てこもって大統領辞任を要求した。サアカシュヴィリはもはや、民主化の象徴ではなくなっていた。>(156~157頁)

親欧米=民主派でないことの典型例がサアカシュヴィリである。開発独裁というよりも、大統領の側近が、政治権力、経済利権を分配した、絵に描いたような腐敗政権がサアカシュヴィリ下のグルジア政府だった。率直に言うと、グルジアは破綻国家で、国土全域を実効的に統治できる政府が存在していない。・・・・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol040(2014年7月9日配信)より

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