ウミガメは変温動物? それとも定温動物!? カメの胃でわかった驚きのアンサー
~「バイオロギングサイエンス」の開拓者~
データロガーが、いかに小さいかがわかる
東京大学大気海洋研究所教授
佐藤克文先生

1967年、宮城県生まれ。京都大学農学部水産学科卒業、京都大学大学院農学研究科修了。国立極地研究所の助手などを経て、現在は、東京大学大気海洋研究所の行動生態計測分野教授

データロガーが海洋動物の知られざる生態を明らかに!

松尾貴史(以下、松尾) 海洋生物学者の佐藤克文先生たちの研究チームは、「バイオロギングサイエンス」というものを提唱されているとうかがいました。これはいったいどういった学問なのでしょうか?

佐藤克文(以下、佐藤)  言葉そのものは造語なんです。「バイオ」が「生物」、「ロギング」が「記録する」という意味で、この二つの言葉を組み合わせて、私たちの研究グループがつくりました。研究内容は、簡単にいうと動物の体に小さな記録計をつけて、観察が難しい水中での行動を調べることです。たとえば南極のペンギンですが、地上から観察しただけでは彼らが水中でどれだけすごい動きをしているのかは、わからないですよね?

松尾 ええ、たしかにわからないですね。氷の上をツルッとすべって転んだり、ドジなイメージすらあります。

佐藤 そこで実際、南極に暮らす野生のペンギンの体にデータロガーと呼ばれる装置をつけて調べてみたんです。

松尾 なるほど。データロガーというと、さまざまなデータを取得する装置のことを指すと思うのですが、バイオロギングサイエンスで使用するデータロガーには、どのような特徴があるのでしょうか。

佐藤 見た目でいうと、コンパクトです。最初の装置は、1960年代にアメリカ人の研究者が手づくりしたものでした。台所にあるキッチンタイマーを改造して、潜った深度に応じて刻み目が記されるという仕組みです。その後の1990年代に、電子化された小さなサイズの装置が多く世に出てきたという歴史があります。

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データロガーを背中に装着したアザラシの姿

松尾 動物に取りつけるとなると、やはり大きく重いものだと研究に支障が出そうですよね。

佐藤 そうですね。初期の頃の装置は、茶筒ほどの大きさだったんです。今では、日本製の装置もたくさん開発されていて、世界でもトップクラスのコンパクトなサイズになっています。

松尾 へぇ~。実は今日、そのデータロガーをスタジオにお持ちいただきました。ここに三つの黒い装置があります。そのうち二つは、少々大ぶりで、だいたい懐中電灯くらいの大きさです。そして、小さいものは印鑑ほどのサイズでしょうか。

佐藤 はい。重さも10gしかないので、空を飛ぶ鳥の体にもつけられます。

岡村仁美アナウンサー(以下、岡村) この装置でなにを測るのですか?

佐藤 これにはまず、圧力センサーがついています。水中に潜る動物なら水圧から潜った深さ、空を飛ぶ鳥ならば気圧から高度がわかります。そして、いちばん重要な加速度センサーもなかに入っています。

松尾 こんなに小さいのに、そんなに多機能なんですか!?

佐藤 ええ、この加速度センサーによって、1秒間に数十~数百という細かいサンプリングレートで加速度を測ります。それでなにがわかるかというと、たとえば鳥がバタバタと羽ばたくと体が揺れますが、その揺れる回数までも測ることができます。

松尾岡村 へぇ~、すごい!

松尾 装置が小さくなればなるほど、きっとお値段も高くなるんですよね・・・?

佐藤 そうですね、今はこのいちばん小さい装置でおよそ40万円します。

松尾 10gの装置が40万円ですか!

佐藤 ええ。実際はこの装置を野生の鳥の体につけて飛ばすので、なかなかドキドキします(笑)。発信器はついていないので、回収しないとすべてパーですから。

松尾 うわぁ~、それは心配ですね~。

佐藤 ええ、40万円の装置を10羽につければ、400万円が空を飛んでいくことに・・・。

松尾 帰ってきたときに、240万円になっていたらショックですね(笑)。ところで、先生は世界各地でさまざまな観測をされていると思います。たとえば南極ですが、私たち一般人にとっては、ドラマやドキュメンタリー映画で紹介されることはあっても、月や火星ぐらい縁遠い場所という感じがします。実際、南極とはどんな場所なのですか?

佐藤 おっしゃるとおり、別世界です。まるで別の惑星にいると感じるぐらい、非日常の世界が広がっていますから。たとえば、南極のある場所で氷の上を歩いていると、すごく変な音が聞こえてきました。

松尾 氷の上を歩いていて聞こえる音というと、ふつうはギュッギュッとかザクザクとか、氷や雪を踏みしめたときのような音を連想しますが・・・。

佐藤 ところがまったく違うんです。場所によりますが、南極の氷というのは海の上に浮かぶ厚さ数メートルの板状の氷で、その上に雪が降り積もっています。つまり、ただの雪の平原ではなく、その下に深さ何百メートルもの水があるということです。

松尾 では、その水のなかから奇妙な音が聞こえるということですか?

佐藤 ええ、そうなんです。私も最初は、ほんとうにUFOでも飛来したのかと思いました(笑)。

松尾 その音の正体はなんだったのですか?

佐藤 実はウェッデルアザラシの鳴き声だったんです。氷の下の水中にはアザラシがウロウロしているのですが、彼らはある程度の社会性があるようで、電子音のような非常によく通る音を発してコミュニケーションをとっているんですよ。

松尾 へぇ~。今日はその音をお持ちいただいたので、ちょっと聞いてみましょう。

(アザラシの鳴き声)キュキュキュピキュピ・・・ホゥゥウウウウフプ―ゥウウウンンンンー・・・プオオオォォォォ・・・。

松尾 ・・・この音のどの部分がアザラシの声なのですか?

佐藤 今の音、全部です。

松尾 ええーっ、全部!? それこそほんとうに宇宙っぽい音ですね。SF映画で、空飛ぶ円盤が飛来したときの効果音のような電気的な音。あるいは、古いラジオのチューニングをしているときのような音ですね。

佐藤 そうなんですよ。もちろん、アザラシたちのこの音がなにを意味しているのかまではわかりません。オス同士が縄張り争いをしているとも、母親が子供を呼んでいるともいわれています。

我々が南極でトイレをするときは風除けのために小さな小屋を建てて、そのなかで氷に穴をあけて用を足します。そこにしゃがんでいると、足元からこの音が聞こえてきて、小屋のなかに音が反響するので、最初は誰もが「なんじゃこりゃー!」とビックリします(笑)。

ウミガメの背中と胃のなかにデータロガーをつけて測定したデータ。「温度」の上段が胃のなかの温度。深度が深くなっても、温度はほぼ一定だとわかる。
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