雑誌 企業・経営
何か妥協をして、味が98点になったとする。たった2点なら、気づかれないかもしれない。でも、妥協するクセがついてしまったら、取り返しがつきません。---八海醸造 南雲二郎

新潟・魚沼の地酒として全国にファンを持つ「八海山」。メーカーの八海醸造は、意外なことに業界では若い企業で、創業は大正11年だ。なぜ、この酒蔵が地酒ブームの火付け役になり、その後も地酒の代表的銘柄として人気が定着する成功を収めたのか。3代目、南雲二郎社長(55歳)に聞いた。


なぐも・じろう/'59年、新潟県生まれ。'80年に東京農業大学短期大学部醸造学科を卒業し、新潟県醸造試験場勤務を経て'84年に八海醸造入社。営業畑を歩み、'97年より現職。趣味はゴルフとスキー。'12年、発酵食品の店「千年こうじや」を、新潟・南魚沼市と、東京・神楽坂などにオープンさせるなど積極的な経営を行う ※八海醸造のwebサイトはこちら

日本酒の魂

酒造りで何より大切なのは「思想」です。よく材料として使っている米の銘柄などが喧伝されますが、それは酒蔵の思想を実現する手段に過ぎません。弊社は食事の味を邪魔しない淡麗な品質を目指しています。食事の場でのコミュニケーションが豊かになるお酒を造りたいと考えているんです。祖父も父もお酒が好きで、かつ、人と話すことが大好きだったから、この思想を持ったのでしょう。

変革

八海山が成長したのは、ある意味「歴史が浅いから」かもしれません。私の祖父は、過疎地に産業を興そうと病院や小さな発電所などをつくっており、創業からしばらくは資産より借金のほうが多いような会社でした。規模は現在の100分の1もなく、たまたま創業者が土地持ちだったから、その土地を担保に細々と酒造りをしていたんです。

その上、次世代(二郎氏の父の世代)は経営陣の平均年齢が30代だったこともあり、自分たちを縛る要素が少なかった。だから思い切った設備投資をするなど、自由な経営ができたのだと思います。

記念に 日本酒の魅力をブログなどで発信し、世界へ広めたティモシー・サリバン氏とともに。右から2人目がサリバン氏で、3人目が南雲氏

加工技術

酒造りの基本は、「加工を正しく行うこと」です。品質目標を実現するため、原料を吟味し、設備や組織を整え、必要なことを実行していく。機械技術で実現できないことは手作業で行います。たとえば「製麹(せいさく・麹を造ること)」。菌糸には蒸したお米の内側へ伸びていってほしい。そして元々、弊社の突破精麹(つきはぜ)は(蒸米への)喰い込みがよいのですが、菌も人と同じで楽なほうへ行こうとするから(笑)、米粒の外側を硬く、内側は菌にとって居心地がいい多湿の状態にしておくとなおよいのです。この作業は絶妙な手加減が必要で機械ではできません。

一方、大吟醸を造るために米を磨く作業は自動化したほうがいい。昭和の昔は人間が機械の前で一晩中寝ず、米を磨く速度を管理していました。40%に精白するなら50時間くらい、モーターのスピードを変えるなどして管理が必要でした。しかし今はコンピューターで全自動。しかも人間より、(米を磨く速度や強さを)正確に管理できます。こうして「日常消費財」である日本酒を価格面でもご満足いただける品質で届けるのです。