「口から食べられる楽しみ」を提供
溶けるように軟らかい摂食回復支援食 イーエヌ大塚製薬[医療食]

大根もしゃもじで軽く触れただけで崩れるほど軟らかい
都内で開かれた「あいーと」の試食会

加齢や病気などによって通常の食事を取ることが難しい人に、「口から食べられる楽しみ」を提供したいと大塚製薬グループのイーエヌ大塚製薬(岩手県花巻市、戸田一豪社長)が開発した摂食回復支援食「あいーと」は販売から約3年半を迎えた。厚生労働省は高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができる地域包括ケアシステムの構築を推進しているが、高齢者の栄養補給は重要な課題になっているだけに、摂食回復支援食は医療・介護の現場からも注目を集めている。

7月1日から1000個の限定販売している「あいーと・愛知県三河産うな重」(1890円、送料、振込手数料別)は、見た目に加え、香りも味もうな重そのもの。しかし、口に運ぶと、うなぎのかば焼きもごはんも、舌で崩せるほどに軟らかい。「あいーと」は「酵素均浸法」という技術を使って、食材の繊維を軟化加工することで、常食に比べて100分の1から1000分の1という軟らかさを実現した。レンコンなどの硬い野菜や肉、魚も舌やスプーンで簡単に崩せ、口の中で溶けるような軟らかさになっている。

食材によって有効な酵素の種類が異なったり、浸す時間が違ったりするために、多くの実験を重ねてきた。流動食に比べて食材の細胞の損傷が少ないので、栄養素と色調が自然のままに保たれている。研究開発の責任者、同社東京研究所の升永博明・新食品事業開発部長は「ごはんも全がゆに比べて軟らかく、また、常食ごはんより少ない量で同等のエネルギーの摂取が可能になりました。食事を取ることが難しい人に、流動食に比べて食べたいという意欲を持たせ、さらに栄養を摂取できます」と話す。

6月に都内で開かれた試食会に参加した女性会社員は「義理の父が長期入院をしていましたが、自宅で正月を迎えた際に一人だけ流動食でした。こうした料理があれば、家族で同じ料理が食べられて、楽しい時間を過ごせたのに」などと話していた。

すでに販売しているメニューは銀鮭の塩焼き(税込み410円)、ぶり大根(同562円)、豚の角煮(同594円)など約39品目になった。病院・施設向けにも販売しているが、個人向けにも通信販売などで全国向けに販売している。料理ごとにパックし、冷凍してあり、蒸し器や電子レンジで加熱するだけで食べることができる。

石垣孝樹会長は「自宅で介護をしている方から、刻み食や流動食では、なかなか食事が進まなかった方も、完食するようになったとの声が多く寄せられています。また、調理の手間も省けることから、家族の負担も減るのが大きいですね。地域包括ケアシステムの早急な構築が課題になっている中で、高齢者の栄養改善、さらに家族の負担軽減を考えると、今後もなるべく多くの人に利用していただけるよう開発を続けていきたいと考えています」と話している。

深刻化する高齢者の低栄養化

厚労省は、団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築に向けて取り組みを加速させている。その中でも、ひとつの大きな課題となっているのが高齢者の低栄養化の改善だ。

厚労省の高齢者向け「栄養改善マニュアル」の中で、予防給付栄養改善サービス利用者となった要支援者7013人への調査で、低栄養化を示す「6カ月間に2~3㌔の体重減少」の該当者は15・7%、「BMI(肥満指数)18・5未満」は10・8%、両方の該当者は5・1%で、いずれかに該当した31・6%が、栄養改善サービスの対象者だったなどと紹介されている。

また、経済産業省の医療・介護関連分野における規制改革・産業総室調査研究事業の報告の中で、要介護者以外も含めた高齢者377人への調査で、「低栄養」と判断された人が139人(約37%)と報告され、このうち要支援、要介護度1、2のように介護度の低い人が75人も含まれていて、低栄養者が潜在的に存在していることを示している。

高齢者問題に詳しいジャーナリスト、藤本順一氏は背景として、「高齢による咀嚼機能の低下など身体的要因に加え、高齢独居世帯の増加で食卓を囲む機会が減り、買い物施設が近くにないなど食べることへの意欲を低下させる心理的、環境的要因が考えられる」と指摘する。

厚労省の介護予防マニュアルでも、高齢者の栄養状態や食事を取るための口腔機能の改善などにも配慮し、日常生活において「食べること」を支援し、低栄養状態の予防や改善指導の重要性を掲げている。さらに支援を行う地域活動を育成し、健康・栄養教育や地域のネットワークづくりを訴えている。

要介護状態になるおそれのある高齢者に対しては、管理栄養士が、他の関連サービスや対象者の身近な地域資源と連携し、栄養ケア・マネジメントを行うことを、訪問型介護予防事業でも訪問の保健師等と管理栄養士との連携が重要である、としている。

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