中央会制度を60年ぶりに抜本改革へ
5年間の改革集中推進期間 来年の通常国会に改正法案[農協]

安倍晋三首相(右)と握手する万歳章JA全中会長。環太平洋パートナーシップ協定の協議におけるコメなどの重要農産品の関税維持を要請した=首相官邸で2月21日

農業協同組合(農協=JA)の改革を巡り全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とする中央会制度が60年ぶりに抜本的に見直されることになった。政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)が答申でJAグループに対して今後5年間を改革集中推進期間と位置づけ「重大な危機感をもって自己改革を実行するよう強く要請する」と迫った。答申を受けた安倍晋三首相は、地域農協を経営指導する法的権限を持つ中央会について「ゼロベースで考え直すことが必要である」と指摘し「改革が単なる看板の書き換えに終わることは決してない」との考えを表明。政府は来年の通常国会に農協法改正案を提出する方針で、JAグループが自己改革に与えられた時間は長くはない。

日本の農業は、農家の高齢化や耕作放棄地の拡大などの問題を抱えており、安倍政権は補助金や規制を見直し、農業を競争力と魅力のある産業に変えようとしている。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉などで農産物の市場開放を迫られる中、農業の国際競争力を高めることが求められている。日本の農政は戦後、自民党農林族、農林水産省、農協によって進められてきたが、この3者による「農政トライアングル」は崩れ始めている。

農協はこれまで日本の食糧供給などで大きな役割を果たしてきた。一方で、組合員の数は農家以外の「准組合員」が、農家の「正組合員」を上回り、正組合員の中でも少数の担い手農業者と多数の兼業農家に二極化している。貯金の受け入れや貸し付けをする信用事業が拡大するなど、1947年の農協法制定時に想定された姿とは異なっている。

また、農業が衰退傾向にあるのに農協は発展したという批判もある。国内で生産された多くの農産物は農協を経由しており、依然として農協の果たす役割は大きい。だからこそ、日本の農業を強化するために、農協の変革が求められている。つまり、時代に合った新しい農協のあり方が問われている。

農協改革を巡る議論で大きな転換点となったのは5月14日だった。規制改革会議の農業作業部会が、農協法に基づき地域農協を経営指導するJA全中と都道府県中央会(JA中央会)からなる中央会制度の廃止や、農産物の流通で国内最大規模の組織である全国農業協同組合連合会(JA全農)の株式会社化など、JAグループの組織変更に踏み込む改革案を公表したからだ。JA全中の万歳章会長は同日、「組織の理念や組合員の意思、経営・事業の実態とはかけ離れた内容であり、JAグループの解体につながるものと受け止めざるを得ず、極めて大きな問題がある」とすぐさま反発した。

その後の議論では、地域では農協票に支えられてきた自民党内で意見が割れ、調整が難航した。「農協が解体され地域が崩壊する」といった反対意見や、「このままでは次の選挙で自民党は負ける」と農村票離れを懸念する声も上がった。一方で改革を容認する意見もあり、自民党は6月10日、中央会制度について「自律的な新たな制度へ移行する」とし、JA全農については「株式会社に転換することを可能とする」との表現で改革案をまとめた。最終的には規制改革会議も与党に配慮してこれらの文言を踏襲した答申をまとめ、安倍首相に提出した。

農協の歴史を振り返ると、47年に農協法が制定され、組合員である農家が互いに助け合う協同組合として各地に設立された。一時は1万3000を超える農協ができたが、戦後の経済混乱によって経営が悪化する農協が続出。54年に中央会制度が導入され、地域農協を経営指導したり合併を進めたりするなど成果を上げた。しかし、現在は地域農協が約700にまで減少した。中央会が一律的に指導する役割から脱却し、地域農協が主体となって農産物販売などの経済活動によって利益を上げ、組合員への還元と将来への投資に充てるようにするのが改革の狙いだ。

政府が6月24日に閣議決定した成長戦略には、中央会制度は自律的な新たな制度へ移行するとともに、JA全農と経済農業協同組合連合会(JA経済連)は農協出資の株式会社に転換することを可能とすることを明記。政府は、JAグループの自己改革が円滑に進むよう次期通常国会に関連法案を提出することを目指す。ある政府関係者は「新たな制度へ移行するということは現在の中央会制度がなくなるということだ」と説明する。

今後は「新たな制度」に向けた具体的な設計が焦点。中央会制度廃止への「首相官邸の意向は強い」(政府関係者)とされるが、JA全中や自民党内に依然として異論が強く、具体化までには曲折がありそうだ。まずは、JAグループが自分たちの組織がどうあるべきか、どう変わっていくべきかを早急に検討する必要がある。

ある自民党農林族は「今まで農政改革をやろうとしても農林族と農協が組んで改革をさせなかったというのが事実。競争にさらさなかった。競争にさらしたから良くなるとは分からないけど、さらさない限り現状は変わらない」と自戒を込めて言う。

「攻めの農林水産業」30年に5兆円輸出目指す

安倍首相は「日本の農業者・生産者が間違いなく、真面目に良いものを作っている。しかし、その良いものが果たして消費者のニーズに合っているのか、付加価値を生んでいるのか、輸出をするための努力をしていたのか、ということをもう一度よく考えながら、そのための組織として、頑張ってもらいたい」と述べている。

「攻めの農林水産業」を掲げる安倍政権は、人口増加や市場拡大が見込まれる海外市場に果敢に打って出るため、農林水産物・食品の輸出額を2020年に1兆円へ倍増させる従来の計画に加え、改訂した成長戦略で30年に5兆円を目指す新たな目標を掲げた。これを達成するのは簡単ではない。今回の農協改革では組織論が注目され、日本の農業がどうすれば強くなるかといった議論は目立たなかった。今後は法改正に向けて農協改革が具体的にどのような成果をもたらすのかをしっかり見極める必要がある。

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