都知事、会場計画見直しを表明
建設コスト高騰招致段階の開催計画を変更へ[東京五輪]

2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会の調整会議で会場計画見直しを確認した後、報道陣の取材に応じる森喜朗会長と舛添要一知事=都庁内で6月12日

2020年東京五輪・パラリンピックを巡り、東京都の舛添要一知事が6月、会場計画を見直す方針を表明した。背景にあるのは、建設コストの高騰だ。東日本大震災の被災地で復興事業が本格化する中、各地の公共工事の入札で業者側が提示する金額が予定価格(落札の上限額)と折り合わず、入札不調が相次いでいる。五輪で都が新設・改修費を担う12施設だけでも、現状では、招致段階の大会開催計画「立候補ファイル」の当初見込み(総額1538億円)を大きく上回り、数千億円規模になると見込まれている。国や競技団体などとの調整に向け、知事の手腕が問われそうだ。

「大会後の東京にどのようなレガシー(遺産)を残せるのか、広く都民の生活にどのような影響を与えるのか、現実妥当性をもって見定めていく必要があります。加えて、顕在化してきました建設資材や人件費の上昇など、整備コストの高騰への懸念にも対応していかなければなりません」

6月10日、東京都議会の本会議場。舛添知事は所信表明の終盤でこう力を込め、会場計画全体を見直す考えを示した。事前に議会関係者に配布されていた文書には、盛り込まれていない言葉だった。

直後に、大会組織委員会の森喜朗会長も「知事と数回にわたり議論を重ね、都民・国民の皆さんにとって、いかに喜ばれる大会とするか、会場計画を改めて検討し、見直しが必要であるとのことで、意見の一致をみました」とするコメントを発表。都と組織委が連携して見直し作業を進めていく考えを強調してみせた。組織委の事務局が入るのは、都庁第1本庁舎14階。7階には知事室があり、森、舛添両氏は、週2回程度顔を合わせて協議を重ねていたといい、「2人で話し合って出した結論」(都幹部)とされる。

東京への五輪招致段階で国際オリンピック委員会(IOC)に提出されていた会場計画とはどんなものだったのか、改めて整理しておきたい。

会場となるのは、プレスセンターや選手村などを含めて39施設。五輪の競技会場については、中央区晴海に建設される選手村から8キロ圏内に85%を配置し、選手への負担が少ないコンパクトな計画が特長となっている。

都が整備主体となるのは、新設10▽改修2――の計12施設。このうち、葛西臨海公園(江戸川区)に新設されるカヌー・スラローム競技会場については、公園内に絶滅危惧種を含めて希少動物が生息していることから、日本野鳥の会などが見直しを求めていた。舛添知事は6月17日の都議会本会議で「自然環境への配慮も必要であることから、隣接する下水道局の用地を活用するなど所管局に施設配置の検討を指示し、今後会場計画全体の見直しの中で都としての結論を出す」と答弁した。

他の施設については、知事は「近隣県までを含めて既存施設の活用、整備工法の見直しによる整備費の圧縮、環境などに配慮した会場設計などについて検討する」と述べるにとどめたが、関係者によると、新設の「夢の島ユース・プラザ」(江東区)と、東京湾中央防波堤の「海の森水上競技場」が見直しの対象となっている。

夢の島ユース・プラザでは、アリーナAでバドミントン、同Bでバスケットボールが予定され、招致段階で整備費は364億円と見込まれた。ただ、周辺には「有明コロシアム」「有明スポーツセンター」など既存の施設があり、五輪後は需要に乏しいとも指摘される。都は建設中止を視野に、バスケットを「さいたまスーパーアリーナ」(さいたま市)に、バドミントンを「武蔵野の森総合スポーツ施設」(東京都調布市)に会場変更することを検討している。

また、ボートとカヌー・スプリントの会場となる海の森水上競技場は69億円と見込まれていたが、水門などの整備費が大幅に増えることが判明したという。

戸惑う文科省とJOC

問題となっているのは、都の施設だけではない。五輪の主会場として建て替えが予定されている国立競技場(東京都新宿区)を巡っても、5月に行われた解体工事の一般競争入札で落札業者が決まらず、入札不調となった。業者側の提示額が予定価格を上回ったためで、整備主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は再入札を実施する。7月に予定していた解体着手は遅れる可能性が高い。地上5階建て、地下1階建ての国立競技場の解体工事は工区を南北の二つに分け、予定工事発注規模をそれぞれ20億2000万円以上とされていたが、当初見込みより高額になりそうだ。

被災地の復興事業に関しては、「五輪関連にヒトやモノが流れれば、工事費は更に高くなる」(岩手県大船渡市の担当者)と不安視する声も漏れているだけに、見直しに向けた知事の決断には、一定の評価をする声が目立つ。

ただ、スポーツ界などからは戸惑いの声が上がっている。知事が初めて見直しを表明した6月10日、日本オリンピック委員会(JOC)の竹田恒和会長は、当日になって連絡を受けたと明かし、「具体的なことは全く聞いていないし、情報はない」と淡々と話した。文科省幹部も同日、「急に連絡があって、朝から振り回された」と、疲労感をにじませた。日本バスケットボール協会関係者はバスケット会場変更が取りざたされる中、「どういうことなのか状況がよく把握できていない。団体には話はない」と困惑した様子をのぞかせた。

知事が同13日にIOCのトーマス・バッハ会長と都内のホテルで会談して見直しの方針を伝えると、見直しは1回にとどめるよう注文を受けたという。組織委は、来年2月にはIOCに大会開催基本計画を提出しなければならない。

「アスリートファースト(選手第一)」の東京五輪を、いかに実現するか。各競技団体をはじめ、多くの利害関係者との調整が求められる中、残された時間は、そう長くはない。

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