FOOTBALL STANDARD

二宮寿朗「ネイマールと涙」

2014年07月09日(水) 二宮 寿朗

 涙で始まり、涙で終わった。
 母国開催ブラジルの22歳のエース、ネイマールのW杯。
 彼はとにかくよく泣いた。開幕戦のグループリーグ、クロアチア戦。国歌斉唱の際に目に涙を浮かべると、続く2戦目のメキシコ戦でも演奏が終わってから続いていたアカペラの最後のほうになってから突如、彼は再び目頭を押さえていた。

 チリと戦った決勝トーナメント1回戦もそうだった。PK戦を制してベスト8進出を決めると、ネイマールはピッチにひざをつけてカナリア色のユニホームをまくり上げて目に押し当てた。目を赤く腫らしながら、ルイス・フェリペ・スコラーリ監督とも熱い抱擁を交わした。

 そして準々決勝のコロンビア戦。背後からファン・スニガの“ひざ蹴り”を腰に受け、立ち上がることすらできなかった。ストレッチャーで運び出される際に顔を両手で覆い、泣いていた。検査の結果、腰椎を骨折したことが明らかになり、残り試合を戦うことはできなくなった。きっと、この結果をあらためて聞かされていたときも、ネイマールは無念の涙を流したに違いない。

感情の高まりをプラスに

 ネイマールと涙。
 コロンビア戦の涙は別として、他の3試合は感極まって流れ出したもの。サポーターも一緒に歌い上げてスタジアムにこだまする国歌に、そして整列している気合い十分の仲間に、彼の感情がたかぶったのは想像できる。大会前はW杯開催反対のデモが頻発するなど、ブラジル国内は決して応援ムードではなかった。そういった背景も、心をより熱くしたのだろうと思う。

 しかし彼はただ単に「涙もろい」のではない(サントスのラストゲームでも泣いているが)。
 己の力に変えるための涙。開幕戦のクロアチア戦では2ゴールを挙げ、メキシコ戦こそノーゴールに終わったとはいえ、ヘディングシュートで決定的な場面をつくった。得点を阻止されたのは相手GKのギジェルモ・オチョアの“スーパーセーブ”を讃えるべきだろう。

 チリとのPK戦では5番目のキッカーとして登場した。タメをつくって相手GKの出方を見てキックを放つ冷静さで、チームに勝利をもたらしている。その後、あの涙のシーンとなるわけだが、感情のたかぶりをプラスに影響させているのがよく分かる。ブラジル国民の応援、背番号10でプレーできる喜び……そういったすべてのものを一気に心に流すことで、力強さ、たくましさを生み出してきた印象だ。

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