交尾をしたばかりと思われる雌ザメ(撮影:山田鉄也)

モテる雌ザメの体はズタボロ!? 種を守るサメの驚きの生殖機能

沼口麻子「サメに恋して」第5回

モテる雌ザメの特徴とは

セクシーなサメを目にするようになるこの時期、私は夏の到来を感じる。魅惑的でモテる雌ザメは外見で一目瞭然。すぐにわかる。身体のしなやかさや流線美か、それとも瞳の美しさか、はたまた美しい柄のサメ肌に身を包んでいるのだろうか。残念ながらそれらはモテるサメの特徴ではない。

皮膚を不規則に深くえぐられ、サメの特徴である5対のエラ孔がびりびりに破け、胸部から体の側面には複数の大きな傷口があり、一見、瀕死のサメではないかと見間違うほどのズタボロになって泳ぐサメ。耳を疑うかもしれないが、これがモテる雌ザメの特徴だ。

サメは一般的に、交尾をするとき、雄が雌に噛み付く習性がある。つまり、身体に歯形や咬み傷がついている雌ザメは処女ではない。交尾をしたばかりの雌ザメには生々しい傷跡があるのだ。

噛み付きながら交尾をする理由。これには2つの説がある。ひとつは、雌の総排泄孔(サメの場合、排泄物を出す孔と子宮孔が出口部分で連結しており、そう呼ばれる)に交接器(人間で言うおちんちん。「クラスパー」とも言う)を挿入する際、身体を固定させるため。もうひとつは、性的興奮を促すというものだ。

実際に、シロワニを飼育している水族館では、雄と雌の激しい噛み付き行為が度々観察されている。私が学生時代に実習をしていたある水族館では、水温が上昇する時期になると、夕方の閉館時間頃から大水槽がばちゃばちゃとにぎやかになる。

大きな音を立てているのはシロワニ。雄が雌を追いかけまわすのだ。もちろん雌にも選択肢があるわけで、雌が反撃して雄を威嚇し、雄が高速に泳いで逃げていくことがほとんどだった。それでも雄は懲りずに何度もチャレンジし、雌に凄まれるといった激しいバトルが繰り広げられていた。

シロワニというサメは、国内では小笠原諸島に生息する。その周辺海域ではダイビングで海に潜り、手の届きそうなくらい近い場所でサメを観察することはさほど難しくない。しかしながら、父島ではダイビング経験者でなくとも、初夏になればセクシーなサメを見ることができる。港から見える浅場に、新しい咬み傷のついた2m前後の雌のシロワニがあらわれるからだ。

私が訪れたその日も桟橋の下に大きな雌のシロワニがいて、昨夜あたりにでも、性的興奮を感じながら交尾に及んでいたのだろうと思わせる大きな歯形の生傷が、雌の体表にくっきりと見えた。

サメの成熟度を測るもの

ここでちょっと疑問に思った人もいるかもしれない。体内受精をするので、サメはイルカの仲間(ほ乳類)であると思われがちなのだが、サメはほ乳類ではない。魚類なのだ。

サメの交接器は、骨化しており、成熟したサメのそれは常に硬い。私は大学在学中にサメを研究試料として扱っている際、そのサメが成熟しているかしていないかという判断は非常に重要であった。

メスの場合は、腹部を切開して卵巣の成熟度合いや子宮をみて、出産経験があるかないか、また、妊娠の有無から成熟度を判断する。一方、オスの場合は、開腹する前に、まずは交接器が硬いか柔らかいかを触診し、成熟度合いを記録するのだ。

骨化する前の柔らかい交接器を持つものは未成魚、骨化したものを持っていたら成魚といったように(成熟度合いは実際はもっと細かく定義されている)。また、サメの交接器には鋭い棘が隠されている。

サメの交接器

サメの交接器の最大の特徴は2本あるということだ。腹びれのところからニョキっと生えているのだが、脊椎動物で2本もあるのはサメの仲間だけ。その構造もユニークで、交接器には関節があり、ある種のサメに関しては、雌が左側へきたら、雄は自分の右側の交接器を雌のいる左側へ向かって90度に折り曲げ、交尾を行なう。

交接器が2本ある理由は当初、何らかの原因で1本を失っても生殖可能のための、スペア的なものだろうと言われていたが、交接器が一本になってしまったサメの目撃例がほとんどないことから、その説は見直されるべきかもしれない。

※サメの仲間は板鰓類(ばんさいるい)グループを指す。それにはサメとエイが属す。

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