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〔PHOTO〕gettyimages

凄い光景を録画で見た。サッカーW杯で日本と戦ったコートジボワールのドログバのプレーである。
選手としては盛りをすぎた36歳。しかも故障明けなのに後半17分、途中出場した途端スタンドとピッチの空気を一変させた。
あれが「内戦を止めた」と言われる偉大な選手の存在感というものだろうか。それまで日本に1点リードを許していたコートジボワールの選手たちがまるで生まれ変わったように躍動し始めた。

2分後、右DFがクロスを上げた。日本のDF陣は左サイドにドログバがいるので動けない。その空いたスペースにFWボニがするすると入ってヘディングでゴール。直後の2点目もほとんど同じパターンだった。
サッカーをやっている高2の次男に感想を聞いたら「ドログバは点に絡んでないけど、彼が決めたようなものだ」と言っていた。

その通りだろう。ドログバはボールに触ってないときもゲームを支配していた。それは、卓越した技術と知性を持つ人間にだけ可能なことだった。

「サッカーってボールを持ってない選手が相手を引きつけ、味方が自由に動けるスペースを作ることがこんなに大事だったんだ」

と、思わず次男に漏らしたら、

「パパもやっとサッカーの奥の深さがわかってきたようだね」

と、鼻先で笑われた。

次男は小学2年から9年余り、サッカーをつづけている。私は暇にまかせて彼らの試合ぶりをボーッと眺めていただけだ。知識量においてもゲームの観察眼においてもまったくかなわない。

私はW杯の放映時間帯、荻窪の日大第二学園にいた。青々とした人工芝の広いグラウンドである。
中3の三男の試合が始まろうとしていた。区大会の2回戦。負けたら、それで引退だ。小学1年から切れ目なくつづいた三男のサッカー漬けの日々が終わる。

午前10時半、キックオフ。やや押され気味の展開でゲームは始まった。ボランチの三男は必死に相手のボールを奪おうとする。
数分後、自陣前の右サイドでやっとボールに追いついた。振り向きざまに左足で高くて長いボールを蹴った。ボールはハーフウェイラインの左サイド寄りに飛んだ。
それを起点にチームは攻勢をかける。開始10分後、FWが見事なシュートを決めた。調子は悪くなさそうだ。これなら都大会出場も夢でなくなるかもしれぬ。
三男は兄に1年遅れて同じ小学校のサッカークラブに入った。私は兄弟の試合を見に行くようになって、コーチの指導ぶりに目を瞠った。専任コーチのHさんは30~40代と思しき男性なのだが、正確な年齢は不詳。何が本業で、妻子がいるのかどうかもわからない、謎の人物だった。

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