官々愕々 集団的自衛権とワールドカップ
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集団的自衛権の行使容認をめぐる与党協議が大詰めを迎えた。本稿執筆時点では、国会会期中の閣議決定は見送られそうだが、当初「期限ありき」ではないと言っていた安倍総理が、急に「今国会会期末までに」閣議決定したいと大騒ぎを始めた時は、やっぱり嘘つきだなと思った方も多いだろう。

会期末6月22日は日曜日だから、実質的には20日金曜日が期限になる。年末に予定される日米防衛ガイドライン改定に間に合わせるために早く決定したいのはわかるが、ピンポイントで20日にこだわる理由にはならない。

実は、最近になって安倍総理は、急に不安になったのではないか。当初は、自分が前に出れば、簡単に世論は自分になびくと甘く考えていたようだ。紛争地の港から母親に抱かれた赤ん坊を乗せて運ぶ米軍艦の絵を見せながら、今のままでは「国民の命を守れないんです!」と絶叫したパフォーマンスはまったく不評。官邸でも頭を抱えてしまったという。時間が経っても国民の理解が進まないのは、昨年の特定秘密保護法と同じ。今回も、だんだん反対の声が強くなるリスクが出てきた。

こういうときに悪知恵を出すのは官邸官僚たちだ。事実上の会期末20日と言えば、ワールドカップ日本代表のギリシャ戦。日本時間早朝7時キックオフだ。ギリシャ戦に勝利すれば決勝トーナメント進出の可能性が出てくるので、午前9時前には、日本中がお祭り騒ぎになる。負けたとしても当日と翌日のニュースはこの話で埋め尽くされる。定例の閣議は9時前後。集団的自衛権行使容認の閣議決定のニュースはあっという間にかき消される。こんなにぴったりビッグイベントが重なるチャンスはめったにない。何が何でも20日というのは、こんな企みだったのかもしれない。

そんな折、イラクでISIS(イラクシリアイスラム国)という武装勢力が「突然」北部を制圧。首都バグダッド近くまで侵攻してきた。

安倍総理の心ははやっているのではないか。彼がいかに好戦的かは昨年暴露されている。シリアの化学兵器使用に対する米国の武力介入の可能性が高まった8月28日、中東歴訪中の安倍総理は唐突に「アサド政権は道を譲るべきだ」と事実上アサド退陣を要求した。

逆に、米国のケリー国務長官はその翌日、「アサド政権打倒が目的ではない」と強調した。同日、英国も派兵を見合わせ、オバマ大統領も結局は武力行使を止めた。

そこには、中東における複雑な状況を理解した上での慎重な決断という面がある。シリアの内戦は、アサド独裁政権対民主勢力という単純な図式ではない。反政府勢力の中心は、元アルカイダ系のISISや周辺国の支援を受けた武装勢力で、国民の多くはアサド政権の方がまだましだと考えている。無理にアサド政権を倒しても事態は逆に悪化すると見込んで各国は自重した。一方、安倍総理はイケイケどんどんの「正義の戦争」ごっこで、アサド退陣を叫んだのだ。

今、シリアで敗色濃厚となったISISなどの武装勢力が大挙してシリアを脱出してイラクに集結し、次なる「聖戦」を始めている。安倍総理から見れば、「正義の味方日本」の出番。「この地域が混乱して日本に石油が入らなくなる」と危機感を煽り、米国の対イラク武力行使に参加したい。それもあって、集団的自衛権行使で、ホルムズ海峡の機雷掃海を公明党に認めさせようと必死になった。

こんな危険な総理の暴走を抑えるのが憲法9条の役割。しかし、9条が抑えるべき安倍総理が、逆に9条を破棄しようとしている。

絶対に許してはならない。

『週刊現代』2014年7月5日号より

原発の倫理学(税別価格:1400円)
話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。