野球
二宮清純「伊良部秀輝にカーブを教えた男」

カーブのスペシャリスト・金田留広

 この5月、ノンフィクションライターの田崎健太さんが『球童 伊良部秀輝伝』(講談社)という本を出版しました。サブタイトルにあるように2011年7月に自ら命を絶った伊良部秀輝さんの42年間の人生をたどったものです。

 伊良部さんに対しては、私も何度かインタビューしたことがあります。ある程度のことは知っているつもりでしたが、このことは本を読むまで知りませんでした。

 若い頃の伊良部さんは落差の大きなカーブを投げていました。このボールを教えたのが、当時のロッテ2軍投手コーチ・金田留広さんだというのです。

 合点がいきました。金田トメさんといえば、「オレはカーブだけで128勝(109敗2セーブ)した」と、ことあるごとに口にするカーブのスペシャリスト。つまり、あのブレーキの利いたカーブは師匠譲りだったのです。

 では、なぜ金田さんは伊良部さんにカーブを教えたのでしょう。
「プロに入ってきた時、伊良部は真っすぐしか投げられなかった。いくらストレートが150キロを超えているといっても、速いだけならプロのバッターは1、2、3のタイミングで打ち返します。実際、イースタンリーグでさえ、相手方のバッターは“伊良部は見た目ほど速くない”と言っていました。
 そこでカーブを教えたんです。カーブを覚えれば投球にメリハリがつき、ストレートがより速く見える。カーブが緩なら、ストレートは急。その極意を伝授したんです」

 金田さんによれば、最初、伊良部さんはカーブの投げ方さえ知らなかったそうです。
「カーブはひねっちゃダメ。上に放り投げるようにして指の間から抜く。ああ見えて彼は器用でね、1週間でマスターしましたよ」