『記号創発ロボティクス―知能のメカニズム入門』著:谷口忠大---「心とは何か?」という問いに苦悩した経験はあるだろうか
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幼いころから、誰しもが「自分自身とは何か?」という問いに少なからず囚われる。その好奇心は「自分と社会の来歴」に注目すれば歴史学になり、「自らの物質的存在根拠」になれば物理学になり、「生物の一種としての自分」となれば生物学になる。

自らの存在根拠への問いは、学問を駆動する一つの代表的なエネルギーなのだ。その注目点の一つとして「心とは何か?」という問いがあると思う。

世の中の多くの人が、学問とは研究対象によってのみ区分されると思っておられるかもしれない。例えば、生物を対象としたものが生物学であり、歴史を対象としたものが歴史学である、といったように。しかし、実際には学問領域は対象のみならず、アプローチによっても区分される。

例えば、心理学といった場合には、人間の心を対象とするものの、現在主流の実験心理学のアプローチで研究を行うということが暗に含まれている。そして、それは大学の学部で言えば文学部であったり、教育学部だったりといった文系の学問として理解されがちだ。

しかし、「心とは何か?」という問いに対するアプローチは一通りではない。「心とは何か?」の問いは哲学の問いであると同時に、心理学の問いであり、認知科学の問いでもある。またそれは、人工知能やロボティクスの問いでもあるのだ。実際のところ、人工知能やロボティクスの研究者の一部は、知能やロボットを創ることを通して人間の心を理解しようとしている。

「創ることによって理解する」このアプローチは構成論的アプローチと呼ばれる。構成論的アプローチは20世紀末に複雑系の研究の隆盛とともに徐々に広まってきた研究アプローチだ。

私たち人間は自らの経験を通して、概念を獲得し、言語を運用できるようになり、実世界を認識し移動し、人と会話できるようになる。これは明らかに私たちの心、知能の作用であり、この圧倒的な学習能力、適応能力こそ人間の本質の一つである。しかし、いったい「どうやって」人間はこのような学習や適応を達成しているのだろうか。

実際には「どうやって」という曖昧な問いには、さまざまな捉え方と答え方がありうる。その一つが「人間はどのような情報処理、計算処理を行うことで学習し、言語を獲得し、心を持つに至っているのか?」というような問いの捉え方だ。このような問いの捉え方に対しては「こうこうこういう計算処理をしていると仮定すれば人間が行っている言語獲得を説明できます!」というような答え方があるだろう。