危うい厚生年金基金に
レフェリー・ストップを

運用損を抱えて身動きもとれず

 3月28日の『日本経済新聞』朝刊一面のトップに厚生年金基金の給付額が収入額を上回る勢いであることが載った。一刻を争って報道すべき性質のニュースでないこの種の問題がトップ記事というのは、重大なニュースがない平和な日ということなのかも知れない。

 しかし、サラリーマンを含めて企業人にとって、企業年金の問題はもはや解決の困難な重いテーマになりつつある。

 年金の成熟度は、収入に対する給付の額、あるいは現役加入者に対する年金受給者の数で測られることが多い。

 日経の記事は、多くの企業の厚生年金基金で、毎年の保険料収入よりも、年金給付のほうが多い状態になりつつあることを報じたものだ。

 この場合は資金繰りに余裕が無くなったり、運用資産の額が縮小したりするので、「成熟」といっても、少年が大人になるようなイメージではなく、大人が老化していくようなイメージだ。直近の給付額が保険料に占める比率は92.6%だという。

 この数字は、1998年度は44.4%だったから、10年で倍増以上になった。かつては、運用会社が企業年金の担当者に「御基金はまだ成熟度が低いので、運用期間が長く取れます。ある程度のリスクテイクが可能かと存じます」などとセールスしていたわけだが、今や状況は様変わりした。

 年金給付の保険料に対する比率が100%を超えた基金が、全体の約4割に当たる246基金あるという。

 厚生年金の場合、基本的には完全積立方式なので、掛金と給付のバランスが崩れることは、本来、問題にならないはずだ。しかし現在、多くの厚生年金基金が運用で損を抱えている。この状態で積立金を取り崩さざるを得ない状態になると、運用の損を取り返すのが一層大変になるから、やはり嬉しいことではない。

厚生年金基金の大半は「逃げ遅れ」

 厚生年金基金は、企業独自の年金制度の資産に加えて、国の厚生年金の一部を代行して運用する仕組みだ。この仕組みは、国の年金の代行部分について企業が運用リスクを負うので、企業にとっての負担が重いとして、近年、企業に敬遠されてきた。

 日経の記事を見ると、1997年ごろには、全国に1900基金があり、加入者は1200万人を超えていたが、2008年度末の基金数は609基金に減っており、加入者も439万人に過ぎない。

 かつての厚生年金基金の多くは、確定給付型ではあっても代行部分を持たない企業独自の年金制度である確定給付型企業年金に移行したり、基金を解散して、個々の加入者自身が自分の積立金の運用リスクを負う確定拠出型年金を導入したりしてきた。

 ちなみに、幸田真音氏の『代行返上』(小学館。2004年3月刊)は、この代行部分の返上を題材に書かれた小説である。

 それでは、この609基金はどうして厚生年金基金として残っているのか。代行部分も運用するほうがいいという独自の判断を持った企業が少しはあるとしても、運用の損に加え、母体企業側に財務的な体力がなくて、制度の移行の際に欠損金を埋める負担に耐えられなかった基金が、いわば「逃げ遅れた」ものが多いと推測される。

 日経の記事の末尾近くには「厚年基金の86%は将来の運用の前提となる予定利率を5.5%に設定している」と書かれている。

 これは運用に自信があるから高い利率を設定しているのではなく、母体企業が、予定利率を下げた際の積立不足額の拡大や保険料の引き上げに耐えられないからだろう。記事にあるように予定利率を現実的な水準まで引き下げるためには、年金給付の引き下げが必要だが、これも難しい。

 現役の加入者に対しても給付の引き下げには加入者の同意が必要で、これが難航する企業が少なくあるまい。しかも、受給者が急速に増えているということは、すでに年金生活に入っていて年金額が確定している受給者が多いということだ。JALの場合を見ても分かるように、OBの年金額の引き下げに同意を得るハードルは、非常に高い。

 率直に言うと、現在残っている厚生年金基金の相当数はできるだけ早く止めたほうがいい基金だ。しかし、それがままならない事情がある。

 特に、総合型と呼ばれる同一業界の中小企業が集まって設立したような基金では、基金を解散する際に欠損金を埋めなければならない。しかし、加入企業の相当数がその負担に耐えられないので、継続できる限り継続するしかない状況に陥っている。

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