究極のエコカー 燃料電池車、市場に投入へ
政府、水素ステーションのインフラ整備急ぐ[特集]

燃料電池自動車に水素を充填する移動式水素ステーション=東京都千代田区の経済産業省中庭で5月16日

水素を燃料にして走行中は二酸化炭素(CO2)を出さない「究極のエコカー」の燃料電池自動車(FCV)。実証実験段階を終え、いよいよ来年からは一般販売される。クリーンエネルギー推進を図る政府は、燃料を補給する水素ステーションなどインフラ整備に向けて補助制度を充実させ、普及への障害となる規制を順次緩和するなどバックアップに懸命の構えだ。同じくCO2を出さない電気自動車(EV)が期待したほど伸びていないが、「中長期的にはすみ分けがなされる」という。価格面などFCVの課題は少なくないが、この分野では日本は他国を大きリードしており2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて世界へアピールする絶好チャンスだ。市場の優位性を確保する意味でも官民連携の取り組みが本格化している。

FCVは、タンクに詰めた水素と空気から取り入れた酸素を燃料電池スタックと呼ばれる装置で化学反応させて発電し、その電気でモーターを回して走る。燃焼がなく水素エネルギーを直接電気エネルギーに変えるため水素が持つエネルギーの83%を使え、40%程度のガソリンエンジンの2倍以上エネルギー効率がいい。走行中に排出するのは水だけで、CO2をはじめ排ガスを出さないことや騒音も少ないことから電気自動車とともに「究極のエコカー」ともいわれる。

技術開発で航続距離は500キロ以上、水素の充填時間は約3分とガソリン車とほぼ同程度になり、航続距離が約200キロ、充電時間が急速充電器で20~30分、普通充電器で約8時間かかるEVに比べると、この点では優れている。また、FCV、EVとも車から住宅へ電気を供給することも可能となり、災害などで電力会社からの電力がストップしたり、電力需給が逼迫したときなどには貴重な電力源にもなると期待される。

15年にトヨタとホンダが乗用車で、17年に日産が乗用車、トヨタ・日野自動車がバスを市場に投入する予定だ。韓国ではヒュンダイが15年までに1000台の燃料自動車を量産する計画で、ドイツ、米国の自動車メーカーも17年には量産型の販売を予定するなど国際的な開発・市場競争も激しくなっている。

燃料電池は19世紀初めには英国で燃料から電気エネルギーを取り出す原理が発見され、その後、同国で水素と酸素の電気化学反応から電気エネルギーを取り出すことに成功して発明された。1960年代には米航空宇宙局(NASA)で研究が進み、宇宙開発で燃料電池が使われるようになって注目が集まり、ドイツのダイムラー・ベンツ社が94年、カナダで開発された燃料電池を搭載したFCVを世界で初めて開発した。これをきっかけに他の自動車メーカーも競って研究開発を進めてきた。

日本では石油などの化石燃料が将来的には枯渇するという不安や地球温暖化問題などもあって水素エネルギーの活用が着目され、72年から始まった通産省(現・経産省)の省エネルギー政策「ムーンライト計画」に基づいて燃料電池の開発が始まった。

FCVの研究開発は80年代から本格化し、97年にトヨタが試作車を発表、01年にはマツダのFCV「プレマシーFC―EV」が初めて国土交通省の認定を受け、公道走行試験を開始した。02年2月、国内初の水素ステーションが大阪に完成、12月にはトヨタとホンダのFCVが経産省や首相官邸などにリース販売され、同月、移動式の水素ステーションが東京・霞が関にも開設された。

以後、トヨタ・日野自動車がバスを東京都に納入、日産が神奈川県や横浜市などにリースし、水素ステーションも東京・有明、横浜市や関西空港、九州大学などにも作られ、本格的に車とインフラの実証実験が行われてきた。

こうした中で経産省は10年4月に「次世代自動車戦略2010」を公表し、ハイブリッド自動車、FCV、EV・プラグインハイブリッド自動車、クリーンディーゼル自動車を普及させるための戦略を立てた。

主にハイブリッド自動車、EV・プラグインハイブリッド自動車の普及を重点にしたものであるが、新車販売台数に占める割合を、EV・プラグインハイブリッド自動車は20年に15~20%、30年に20~30%、ハイブリッド自動車を20年に20~30%、30年に50~70%とした。FCVは20年に1%、30年には3%の目標を掲げている。国内の乗用車の販売台数は、昨年は普通、小型、軽自動車合わせて約458万7500台だから、FCVは20年には約4万5800台、30年には13万7600台の販売が目標となる。

この目標達成のため政府による積極的なインセンティブ施策が求められるとし、世界最先端の電池研究開発・技術確保など六つの戦略を示した。

さらには11年1月、トヨタ、日産、ホンダの自動車会社3社、JX日鉱日石エネルギー、出光、昭和シェル、コスモ石油の石油会社4社、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、西部ガスの都市ガス会社4社、岩谷産業、大陽日酸の産業ガス会社2社の計13社が、(1)15年に燃料電池自動車の量産車を国内市場へ導入し一般ユーザーに販売(2)15年までに首都圏、中京圏、関西圏、北部九州の4大都市圏を中心に100カ所の水素ステーションを先行整備(3)普及支援策や普及戦略について官民協働で構築することを政府に要望する――とした「燃料電池自動車の国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」を発表し、FCV普及に向けた取り組みに拍車がかかった。

昨年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では、基本的には「戦略2010」を踏襲し、初期需要の創出や性能向上のための研究開発支援、効率的なインフラ整備などを進めるとし、15年の水素ステーション100カ所整備で世界最速でFCVを普及させることを目標にした。

FCVの普及を大きく左右するのが水素を車に供給する水素ステーションのインフラ部分だ。全国普及のためには水素の安全性、供給安定性の問題などから国際的に照らしても厳しい規制とガソリンスタンドに比べてはるかに高い設置建設コストが大きな課題。経産省と国交省、消防庁は10年12月、水素ステーションの整備コストを下げる意味でも、欧米でも認められている水準にまで規制を見直す必要があるとして16項目の見直しを進め、再点検の工程を公表した。

また、自動車やガス、石油、電機、鉄鋼会社など関連83社・団体が加盟する「燃料電池実用化推進協議会」(会長・張富士夫トヨタ自動車名誉会長、FCCJ)は昨年3月、水素スタンドをめぐる国際競争が激化する中で、実績のある安い海外製品を日本でも使用できるようにし、量的制限や設置場所制約を見直し、建設に関する申請手続きの統一と許認可基準を透明化することを柱にした8項目の検討事項を追加要望として出した。

FCCJによると、ドイツでは15年までに50カ所まで整備する計画で、米国カリフォルニア州では15年までに68カ所、韓国は15年までに43カ所、20年までに168カ所整備する計画があるという。水素スタンドで実績のある安い海外製品を日本で使用する場合には国内法規に適合させるための改造が必要となり、現状は海外と比較して2~3倍のコストになるという。

要望は、今後標準になると思われる70Mpa(約70気圧)に圧縮した水素を供給するステーションの技術上の基準や例示基準の整備▽現在の建築基準法では準工業地域で60台程度、商業地域で10台程度、準住居地域で5台程度しか補給できない水素の貯蔵量の上限を撤廃する▽水素を効率的に運べるように運送トレーラー容器の上限温度を40~85度に引き上げる――などだ。

これらを受けて経産省は今年3月、圧縮水素を運送するトレーラーの技術基準を改正、4月には従来は6メートル以上離さなければ併設できなかった水素ステーションの貯蔵施設と圧縮天然ガススタンドについて、相互に影響を与えないような障壁の設置などで双方の距離を短くできるようにしたり、使える鋼材を拡大するなどの改正を行った。この規制緩和については各省庁の連携の下で15年までに解決のめどはほぼ立ったと、関係者は言う。

建設コストでは、パイプラインで送られた都市ガスやタンクローリーで運ばれたLPGやナフサなどから敷地内の水素製造・精製装置で水素を作り、FCVに水素を補給するオンサイト方式のステーションで5億~6億円かかるという。工場で製造された水素をタンクローリーなどでステーションまで運び、圧力を上げて水素タンクに貯蔵して車に充填するオフサイト方式で4億~5億円になるという。これまで、経産省の水素・燃料電池プロジェクトなどで9カ所のオンサイト型、8カ所のオフサイト型計17カ所で実証実験を重ね、技術的にはほぼ確立しているが、商用ステーション100カ所の目標達成には国の資金援助は欠かせない。

経産省資源エネルギー庁は昨年、中規模のオンサイト方式のステーションで2億5000万円、オフサイト方式で1億9000万円、小規模のオンサイト方式で1億6000万円、オフサイト方式で1億3000万円を上限とした総額45億円の設備整備補助金制度を創設した。今年度はさらに充実させ合計72億円を確保し、上限額を中規模で3000万円、小規模で2000万円ずつ増額したほか、新たに設置スペースのコンパクト化のためにパッケージ型ステーションや移動式ステーションへの補助も始めた。

同庁によると昨年度は全国でオンサイト方式2カ所、オフサイト17カ所の計19カ所、今年度は5月末までにオンサイト2カ所、オフサイト7カ所、移動式3カ所、その他1カ所の計13カ所について設置の補助が決まっている。

両年度合わせて16カ所で建設を計画、補助を受けるJX日鉱日石エネルギーでは水素の供給安定性、エネルギーの高効率、環境負荷の低さから魅力あるエネルギーとして02年のJHFCプロジェクトのスタート時から水素ステーションについて取り組んできた。昨年4月に神奈川県海老名市にオフサイト型、同5月に名古屋市にオンサイト型で日本初のガソリンスタンド一体型の水素ステーションを作り、商用に向けての実証実験を続けてきた。現在は昨年度の補助を受けることになった新しい水素ステーションの建設に向けて手続きを申請中。ただ、都心部では新たに建設するとなるとコストの兼ね合いから適地がなかなか見つからないのが実情だという。

トヨタ車

来年にFCVを市場に投入する予定のトヨタは92年から開発に着手し、96年に自社開発の燃料電池を積んだ自動車を、01年には高圧水素タンクを搭載したFCVを開発し日米の公道でテスト走行した。現在3代目となる「FCHV―adv」が実証実験を繰り返している。この車は1回の水素充填で830キロの航続距離を記録しているという。同社は昨年の東京モーターショーで発表したFCVのセダン型のコンセプトカー=写真、トヨタ提供=をベースにした車を発売するという。価格については1000万円を切ることは確実だが、詳細は未定だという。

ホンダ車

また、ホンダは99年に燃料電池を搭載した実験車を開発・公開し、01年に公道実験を開始した。02年に日米に納車し、04年には箱根大学駅伝の大会本部車として走行、05年には世界で初めて米国の個人ユーザーに2年契約でリースした。現在、08年に日本で公開されたセダン型の「FCXクラリティ」が環境省や浦和市などの自治体で実験車として走っている。昨年のロサンゼルスオートショーでは新型の「FCEVCONCEPT」=写真、ホンダ提供=を初披露、来年はこの車をベースに市場に投入する予定だが、価格やリース販売にするかどうかの販売形式も決まっていないという。

いずれにしても最初に投入されるFCVは高額が予想され、経産省では同格の車との価格差の2分の1程度を補助することを検討しているという。また、車に充填される水素の値段も決まっておらず、ガソリン車との燃費の差についても考慮していくというが、「究極のエコカー」の普及にはインフラ整備に加え、車自体や水素燃料に対しての国や自治体のバックアップ体制が大きなカギを握る。

将来は電気自動車とのすみ分けも

一方、09年に三菱自動車が初めて市場に投入したEV。翌年には日産も発売したが、予想されたほど伸びていない。

インフラの一つである急速充電器は現在、全国で約2000カ所しかない。国の補助に加えて昨年11月、トヨタ、日産、ホンダ、三菱が共同で補助を出すことを表明し、設置費の負担は実質ゼロになったが、思うように進まない。

車に対しても最大85万円の国の補助があり、さらには自治体によっては上乗せの補助があるが、普及はいまいちだという。経産省は「電気自動車は車両サイズが小さく、近距離の域内コミューターとして、燃料電池自動車は車両サイズが大きく航続距離が長い領域で利用され、将来はすみ分けがなされる」と予測している。

また、次世代自動車・スマートエネルギー特区としてEVの普及などに力を入れるさいたま市はFCVも保有しており、FCVに対しても自治体独自の補助を検討している。同市担当者は「インフラ部分を含め燃料電池自動車など次世代自動車の黎明期をどう支えていくかが私たちの役割だと思っている」と話している。

この続きは、プレミアム会員になるとご覧いただけます。
現代ビジネスプレミアム会員になれば、
過去の記事がすべて読み放題!
無料1ヶ月お試しキャンペーン実施中
すでに会員の方はこちら