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産業政策復活で大喜びしている経産官僚たち

2014年06月22日(日) ドクターZ
週刊現代
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千葉県市原市にある製油所〔PHOTO〕gettyimages

経済産業省が、民間企業への「介入」に踏み切るようだ。今年1月に施行された「産業競争力強化法」に基づいて、供給過剰になっている石油業界の再編を促すために、市場調査に手をつけるというのだ。経産省は石油業界の各社に、年内をめどに合理化計画などの提出も求めるという。

政府が民間企業の経営に口を出す---これは「いつか見た風景」である。今回の政府の行動の根拠になっている産業競争力強化法を見ても、かつての高度成長期に跋扈し、二十数年前にぱったりと姿を消した日本的産業政策が、ちゃっかりアベノミクスの中で復活したことがよくわかる。

「これでいよいよ経産省の復権だ」

元通産省(現経産省)事務次官の某氏はこう言って、手放しで喜んでいたほどである。

では果たして、これで日本の石油業界は見事に「復活」するのだろうか。

日本では、産業政策によって高度成長したという神話があるが、実は最近の研究では、日本的な産業政策の効果はなかったというのが定説。城山三郎氏の『官僚たちの夏』は、産業政策を過度に美化しているが、それは小説の中の世界だ。

国主導で産業を育成するのが「無理」な理由は、官僚はビジネスに疎いという一点に尽きる。社会主義経済がうまくいかないのと、本質的な理由は変わらない。ノーベル経済学賞受賞のハイエクらが何回も指摘してきたことだ。

日本の戦後成長の歴史を見ても、通産省がターゲットにした産業は、石油産業、航空機、宇宙産業などことごとく失敗している。

さらに見れば、情報通信分野などの基礎的な研究の支援を目的としたものの、ほぼ3000億円をどぶに捨てた「基盤技術研究促進センター」があった。第5世代コンピューターも600億円ほどを投入しても、アプリケーションのないマシンしかできなかった。ソフトウエア技術者の不足に対応するということでスタートしたシグマプロジェクトも200億円が消えた。

実は、成長産業を国が見いだすという産業政策は、日本独特のものだ。そんなによければ、とっくに世界中で流行しているはずだが、そうはなっていない。

政府がミクロ的な介入をするだけの能力がないから、先進国で産業政策の例はまずない。産業政策というと立派な政策と思うかもしれないが、実は英語で説明できない。「industrial policy」と言っても、海外ではさっぱり通じない。産業政策を説明すると、開発途上国での幼稚産業保護と誤解される。だから安倍首相も海外の講演では、産業政策を強調できない。

国がある特定産業をターゲットにすると、結果として産業がダメになる。逆に、政府の産業政策に従わなかった自動車などは、世界との競争の荒波にもまれながら、日本のリーディング産業に成長した。要するに、国に産業の将来を見極める眼力があればいいのだが、現実にはそんな魔法はない。必要なのは、国による選別ではなく、競争にもまれることだ。

こうした失敗の歴史にもかかわらず、官僚の誰も責任を取っておらず、天下り官僚が潤っただけだった。

石油業界が供給過剰というが、世界を見回して将来の需給まで見通せる能力が政府にあるはずがない。見通しは業界の人が行って、その結果責任はビジネスが取るしかないだろう。こんな政府介入を恐れて、事前に経産省の天下り先を受け入れるようになったら、おしまいだ。

『週刊現代』2014年6月28日号より

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