「ロシアを制裁する仲間に入れ」というアメリカからイスラエルが逃げ回る2つの理由
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol038 くにまるジャパン発言録より

深読みジャパン

ウクライナの大統領となった「チョコレート王」のペトロ・ポロシェンコ---〔PHOTO〕gettyimages

邦丸: 今日はこのニュースを取り上げます。

伊藤: 産経新聞1面です。ベルギーのブリュッセルで開かれていたG7(先進7ヵ国首脳会議)は5日、中国の海洋進出を念頭に、名指しを避けつつ「現状変更のいかなる一方的な試みにも反対する」とする首脳宣言を採択し閉幕しました。

ウクライナ情勢については、5月25日の大統領選でポロシェンコ氏が次期大統領に決まったことを歓迎し、新政権による国家再建を引き続き後押しする方針が盛り込まれました。

邦丸: ちょっと前まではG8だったんですけれど、ロシアとウクライナの関係で、今回はロシアが外されましてG7に。まあ、元に戻った形になるんですかね。

佐藤: ロシアを半永久的に外すでしょうね。G8はもう終わったということだと思います。(略)日本の報道を見ていると、中国を牽制したということは、どの新聞にも大きく書いてある。ところが、外国の新聞を見ると、それはほとんど出ていないんですね。

(略)「我々は、ロシア連邦によるウクライナの主権と領土の一体性の継続的な侵害を一致団結して非難する」という首脳宣言で、ロシアに対して厳しく出たということを強調している。

こういう悪事に関与したヤツは、制裁の対象になるんだという点を強調しているんですけれど、日本は、ほかの国が制裁の対象にしているロシアのナルイシキン国家院議長にビザを発給して、6月2日に伊吹文明(いぶき・ぶんめい)衆議院議長、森喜朗(もり・よしろう)元首相、鈴木宗男(すずき・むねお)さんが一緒に会食していますよね。イベントには世耕弘成(せこう・ひろしげ)官房副長官が来て、安倍晋三総理の歓迎のメッセージを代読している。

日本はほかの国とはだいぶ違う、抜け駆けをやっているわけですよね。その辺に焦点が当たらないように、当たらないように外務省はブリーフして、それを素直な新聞記者たちが素直に書いていますね。

邦丸: ふーむ。佐藤優さんはつい先日、イスラエルに出張されました。

佐藤: ウクライナの大統領選挙があった5月25日は、イスラエルにいました。

邦丸: イスラエルもアメリカから「ロシアに対して制裁する仲間に入れ」と言われているんだけれど、「いやいや、まあまあ」と従わない。

佐藤: 「うちは小さな国なんで、周りの国とのことで手一杯なんで、そういうことには巻き込まないでください」って逃げ回っています。

ただ、本音はそうではなくて、逃げ回る理由が2つあるんですね。ひとつは、イスラエルの人口ってどのぐらいだと思いますか。けっこう小さな国なんですが。

邦丸: 何百万でしたっけ。

佐藤: 800万。(略)東京都より少ないんです。そのうちの200万がアラブ人です。600万がユダヤ人なんですが、600万のうちの100万人が「新移民」と呼ばれる人たちなんですね。

この新移民は、1980年代末以降、旧ソ連から移民してきた人なんです。ですから、ロシア語をしゃべるんですよ。ロシア文化を維持しています。そしてイスラエルのIT産業は、この人たちが中心になってやっているんです。(略)この人たちは、今でもロシアと緊密な関係を保っているので、制裁などということになったら、この100万人のロシア系ユダヤ人たちが「なにやっているんだっ」という騒ぎになるわけです。

もうひとつは、ウクライナの政権というのは、以前の放送でも申し上げましたが、ガリツィアという地域を拠点にしている。

邦丸: ウクライナのヨーロッパ側ですね。

佐藤: はい。ガリツィアは1945年にソ連の赤軍が入ってくるまでは、ポーランド領だった。それ以前はハプスブルク帝国で、オーストリアとハンガリーの二重帝国だったんです。ここはもともとユダヤ人が多かったところなんです。

現在のイスラエルの人たちというのは、そこから逃げてきた人たちが多いんですよ。ナチスドイツだけではなくて、そこにいたポーランド人やウクライナ人もものすごいユダヤ人弾圧・迫害・殺害をやっているんですね。

ですから、スボボダなんていうネオナチ・反ユダヤ主義者が入っているウクライナの新政権に対して、イスラエルの人たちは極めて冷やかです。あんまりいいもんじゃないと思っている。

ロシアのやっていることはおかしい、帝国主義だと批判はするけれど、だからといってウクライナを支持する必要はないだろうと考えているんです。私はこの番組で以前から繰り返し言っていることと同じラインなので、非常に安心しました。ああ、見方を間違えていなかったなと。(略) だから、これは関わらないほうがいい。それから、イスラエルはもっと端的に言っていました。ウクライナは破綻国家のひとつだというんです。

たとえば、リビアもそうだ。トリポリの周辺しか権力が及ばなくて、あとは部族たちが対立している。シリアもそうだ。少女たちの拉致事件で問題になっているナイジェリアも北部地域が統制できていない。このように、国家が統制できていない破綻国家がある。ウクライナも東部と南部を統治できていない。この政権は、自国民に対して空爆するなんていうことを平気でするから、西側と価値観は一緒じゃない。しばらく経つと、そういう面が出てくるよ。ドイツはわかっているんだろうけどね。まあ、アメリカが興奮しているから、適宜付き合っているんだ──。イスラエルは、こういう見方でした。

邦丸: うーむ。ウクライナの新大統領は、ポロシェンコさん。ウクライナのお菓子王とかチョコレート王とか呼ばれている人だそうで。

佐藤: 政商です。

邦丸: 政商!

ポロシェンコが設立したウクライナ最大の菓子メーカー「ロシェン」のお店---〔PHOTO〕gettyimages

佐藤: ウクライナにおいては、政治と経済がすごく強く結びついているんですね。ですから、経済利権を維持するためには、政治に出てこないといけない。政治家になると、どんどんカネが貯まっていく、ということになるわけです。(略)大統領選の第二位で落選したチモシェンコさん。美し過ぎる政治家とか言われても12~13%しか票を獲れなかったのは、不正蓄財をやっていることを国民が知っているからですよ。

ポロシェンコさんは大学を卒業した後、カカオ豆のバイヤーをやっていたんですよ。それで大儲けするんです。そしてソ連崩壊期のウクライナのお菓子会社を全部買うんですね。それで大コンツェルンを築いたので「チョコレート王」と言われているんですけれど、それだけではなく造船所も持っている。

邦丸: ほお。

佐藤: ガラスもウクライナのほとんどのガラスは彼の工場でつくられている。テレビ局とラジオ局も持っている、メディア王でもあるんです。

最初の西欧派のユシェンコ政権のときの外務大臣を務め、あのダチョウを飼っていたヤヌコビッチ政権では経済発展貿易大臣を務めた。常に権力の周辺にいるんです。権力党員なんです。

ところが一昨年の12月、国会議員選挙で当選した後、閣内に入らなかった。「どうもヤヌコビッチは、やり過ぎている。このまま一緒につき合っていると、ひどい目に遭うことになる」と考え、政権と距離を置いていたんですね。

そして今年の2月にユーロ・マイダン(欧州広場)という運動が起こり、ヤヌコビッチ批判が始まると、その運動におカネを出すわけですよ。あ、この運動が権力を獲れそうだというわけですね。後ろに隠れて、黒幕としてカネを出して政界を動かす人です。ですから、今回は裏の人間が表に出てきたようなもんなんです。・・・・・・(以下略)

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol038(2014年6月11日配信)より

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