佐藤優のインテリジェンス・レポート「外交政策に関するG7首脳コミュニケ」

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」Vol038 インテリジェンス・レポートより
【はじめに】

5月25日のウクライナ大統領選挙では、予想どおり「チョコレート王」のポロシェンコ候補が当選しました。風見鶏型の政商であるポロシェンコが、ウクライナ全域を実効支配する可能性はありません。ウクライナ情勢は今後、一層、混迷を深めるでしょう。今回のウクライナ大統領選挙は、それ自体として分析する価値がないと判断し、6月4日の外交政策に関するG7首脳コミュニケと併せて分析しました。

6月20日(金)、7月4日(金)、8月8日(金)に鎌倉孝夫先生(埼玉大学名誉教授)と『資本論』の読み解きに関する講座を開きます。知的刺激に富んだ講座になることは間違いありません。15:00~17:00ですのでサラリーパーソンの皆さまには参加しにくい時間帯であることが残念ですが、本メルマガの読者の知的関心を満たす内容になると確信しています。

事実関係

1. 6月4~5日、ベルギーのブリュッセルで、G7(日米英仏独伊加サミット/先進国首脳会議)が開催された。

2. 6月4日、外交政策に関するG7首脳コミュニケが発表された。

コメント

1.
6月4~5日、ベルギーのブリュッセルで、G7が開催された。ロシア抜きで首脳会合が行われるのは17年振りのことである。

3.―(2)
5月25日に行われたウクライナ大統領選挙で、ペトロ・ポロシェンコが当選した。ポロシェンコは、1965年9月26日生まれ、現在48歳だ。

閣僚や国会議員を歴任しているが、それ以上に製菓会社「ロシェン」を経営する実業家として有名だ。この会社のチョコレート「アレンカ」は、旧ソ連諸国で大人気の板チョコだ(日本でも通販で買うことができる)。

ポロシェンコは1989年、キエフ国立大学国際関係・国際法学部を卒業した。卒業後、カカオ豆のブローカーになり、大成功を収め、ソ連崩壊後、倒産しかけた旧国営製菓会社の株式を買収し、「ロシェン・グループ」を設立した。グループは造船会社やテレビ局「5チャンネル」も持っている。

ポロシェンコは、ユシェンコ元大統領の下で外相、ヤヌコビッチ前大統領の下で経済発展・貿易相を務めた。現在、ポロシェンコは親欧米派と見なされているが、もともと確固たる政治信条を持った人間ではない。ウクライナでは、経済と政治が結びついている。自己の権力基盤を維持、拡大するためにならば、力のある者と手を握るというのが、一貫したポロシェンコのアプローチである。

ポロシェンコは、2012年12月のウクライナ最高会議(国会)選挙に無所属で立候補して当選したが、入閣せずにヤヌコビッチ政権と徐々に距離を置き始めた。

3.―(3)
今年2月、ヤヌコビッチ政権に反対する「ユーロマイダン(ヨーロッパ広場)」運動が拡大すると、ポロシェンコはこの運動を精力的に支援するようになった。

仮にこのとき、ポロシェンコが「ユーロマイダン」側に加わっていなかったならば、ヤヌコビッチ政権が崩壊したときに“政商”として弾劾の対象になった可能性がある。スターリン時代のソ連には、「告発者は告発されない」という俚諺(りげん)があった。ポロシェンコはそれに倣い、ヤヌコビッチを厳しく弾劾し、ロシアを非難することによって、ロシアと良好な関係を持っていたヤヌコビッチのインナーサークルの一員であったという過去を消すことに成功した。

4.―(2)
コミュニケにおける「包括的な形で国民対話を継続するウクライナ当局の意思を称賛する」というのは、外交辞令にすぎない。G7がウクライナに宛てたメッセージは、「民主主義を深化・強化するとともにウクライナ全地域の全ての人々の権利と願望に応じる枠組みを提供するための憲法改正」をせよということだ。

憲法は主権国家の基本法だ。「現在のウクライナ国家にはウクライナ全域の人々の権利と願望に応じることができていないので、憲法を改正せよ」というかなり露骨な内政干渉だ。

5.―(1)
日本との関係で興味深いのは、第5項で

<我々は、ウクライナの主権と領土の一体性の侵害を積極的に支持又は実施してきた個人と団体、また、ウクライナの平和、安全及び安定を脅かす個人と団体に対し、制裁を課すというG7諸国による決定を確認する。我々は、国連総会決議68/262に沿って、クリミアとセヴアストーポリに関する厳格な不承認政策を実施している。我々は、情勢が必要とすれば、ロシアに更なる負担を課すため、対象を特定した制裁を強化するとともに、重要な追加的制限措置を実施する用意がある。>

と明記されたことだ。

5.―(2)
日本を除くG7は、ナルイシキン露国家院(下院)議長をブラックリストに入れて、渡航禁止措置の対象者に指名した。しかし、日本政府は「同人は渡航禁止措置の対象者でない」と声明し、ナルイシキンの入国を認めた。

そして、6月2日、伊吹文明(いぶき・ぶんめい)衆議院議長がナルイシキン氏を招き、夕食会を開いた(森喜朗元首相、鈴木宗男元衆議院議員が同席)。また、世耕弘成(せこう・ひろしげ)首相補佐官がナルイシキンに安倍晋三首相のメッセージを伝達している。・・・・・・

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol038(2014年6月11日配信)より