AI
チューリング・テストに合格したAI(人工知能)が登場した、とは本当か?
小林 雅一 プロフィール
〔PHOTO〕Thinkstock by gettyimages

先日、「チューリング・テスト(Turing Test)に合格した初のコンピュータ・プログラムが登場した」とのニュースが、世界中のメディアで報じられた。ただしコンピュータ科学者の多くは、この話を額面通りには受け止めていないようだ。

●"Scientists dispute whether computer 'Eugene Goostman' passed Turing test" The Guardian, Monday 9 June 2014

チューリング・テストとは、コンピュータの理論的な礎を築いた英国の数学者、アラン・チューリングが1950年の論文で提唱したとされる一種のベンチマーク・テストだ。このテストでは、審査員(人間)が壁を挟んで相手と会話を交わす。壁の向こうにいる相手はコンピュータかもしれないし、人間かもしれない。どちらであるかは審査員には、あらかじめ知らされない。また会話は、通常の声による会話ではなく、キーボードから文章を打ち込むタイプ入力型の会話だ。

そういう状態で審査員が、壁の向こうにいるコンピュータを人間であると判定(事実上は錯覚)したときに、このコンピュータは人間に匹敵する知性を備えていると認定される。これがチューリング・テストの概要だ。ただし100%の確率で人間を騙すのは、コンピュータにとって酷である。そこで10人の審査員のうち、3人までを騙すことができたら(つまり30%の確率で人間を騙すことができたら)、このコンピュータはチューリング・テストに合格したと認定される。

一種の競技会になったチューリング・テスト

チューリング・テストは、1990年から「ローブナー賞(Loebner Prize)」の名を冠して、一種のコンテスト(競技会)形式で毎年、実施されてきた(開催地は米国か英国の都市)。コンテストでは、大企業の研究所などではなく、基本的に個人プログラマーや少人数の科学者チームなどが、一種手作りの人工知能(AI)プログラムを持ち寄って、チューリング・テストに臨んできた。

また歴代の審査員に選ばれてきたのはコンピュータ科学者や心理学者など。一方、コンピュータの囮として審査員と会話する人たちは、ジャーナリストや英文学研究者など様々な職業の人たちだったが、彼らについては確たる選定基準はないようだ。

ローブナー賞におけるチューリング・テストでは、会話のテーマなどは予め決められていない。つまり完全な自由会話形式で行われる。ただし便宜上の目的から、コンピュータ(あるいは囮となる人間)と審査員との会話は5分間に限られる。この短い時間の間に、コンピュータ(・プログラム)はあらゆる手練手管を弄して、審査員を騙そうとする。これに対し、囮となる人間はごく普通に会話をするだけ。つまり敢えて審査員を騙そうとしてはいけないのだ。

ただし今回、初の合格者(合格コンピュータ?)を出したとされるチューリング・テストは、このローブナー賞におけるコンテストではない。チューリング氏の没後60年を記念して、英王立学会(Royal Society)が独自に実施したチューリング・テストだ。そうではあるが、その内容はローブナー賞と同じく、5分間の自由会話によるものだ。

ここでテストに合格したとされるコンピュータ・プログラムは、米国在住のロシア人、Vladimir Veselov氏が開発した「Eugene」だ。Eugeneはウクライナに住む少年に見せかけた疑似人格を備えている。これ(彼?)がチューリング・テストで審査員と会話するときには、「自分はどんなことでも知っている」と言いながら、会話の随所に年相応の無知を露呈する。これが逆に、「いかにも本物の子供(人間)らしい」という印象を審査員に与えることに成功したという。

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