マスコミも完全ノーマーク「拉致問題再調査」の電撃合意を引き出した安倍政権の「対話と圧力」

拉致問題について、ついに進展があった。日朝両政府は、5月26~28日にスウェーデン・ストックホルムで交渉し、拉致問題の再調査について、北朝鮮が3週間後に特別調査委員会を立ち上げ調査を開始し、日本は北朝鮮に対する独自の制裁措置の解除を始める。

これに至るまで、水面下を含めてあらゆるチャネルを通じてぎりぎりの交渉がなされてきたようだ。今回の合意は電撃的だった。北朝鮮の発表に合わせて日本でも総理・官房長官会見で発表されたが、事前に情報が漏れることもなかった。危機管理がしっかりしていた証拠だ。これは評価できる。

それにしても、29日の夕方になって、総理・官房長官の会見が行われた時のマスコミのバタバタぶりはすごかった。マスコミがまったくノーマークであったのは、当日の官房長官の記者会見をみてもわかる。

なお、官房長官は毎日2回会見しており、範囲はすべての案件に及び、激務だが、その発言は政府の公式見解である。国会では答弁書を見ずに答弁し、雄弁でならした某閣僚経験者も、官房長官の会見はとてもできないと言ったことがあるほどだ。

29日午前の官房長官会見では、最後に、ストックホルムでの拉致問題交渉についての質問があり、菅官房長官は「引き続き協議する。朝鮮総連本部ビル売却問題では、日本では司法に政府は関与できない」と答えている。午後の官房長官会見の冒頭の質問に対し、菅官房長官は、「代表団が帰国したので、直接報告を受けた。報告について、関係閣僚(総理、外務、拉致担当大臣、官房長官)が集まって相談する予定」と答えた。質問した記者も、閣僚が集まるほどの重大な決断があるのかといったが、さらなる追求はなかった。

さらに、菅官房長官が直接報告を受けたといったのであるから、その内容について、聞いておくべきだろう。実際、夕方に急遽開かれた3度目の会見では、合意文書が配られている。総理会見の前に官房長官が言えるはずないが、そうしたことを察知し、突っ込みを入れるのが、マスコミの役目だろう。

菅官房長官がリードした制裁措置が交渉の「武器」に

マスコミが、拉致問題の進展にノーマークだったのは、朝鮮総連本部ビル売却問題で、落札者が二転三転し、何か迷走しているようにみえたことも関係している。たしかに、国内だけを短期的な視点でみていると、朝鮮総連本部ビル売却問題の解決が拉致問題の解決とリンクしているように見える。

しかし、日朝間で人的往来ができなければ、朝鮮総連本部ビル売却問題が解決しても、北朝鮮としては何もできない。というのは、大使館的な朝鮮総連が居場所を確保できても、大使館員的な人が本国で指示をもらわないと、大使館の機能も発揮できないのだ。この北朝鮮への日本独自の制裁措置で、日朝間の人的往来が制限されていることも、マスコミでは忘れ去られていた。