国際的には「集団的自衛権ではない」、国内的には「集団的自衛権」と述べる安倍総理。この説明はまともに考えたらクラクラする話。
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」 vol037 くにまるジャパン発言録より
〔PHOTO〕gettyimages

深読みジャパン

伊藤佳子: 安倍総理大臣は昨日、記者会見を開き、集団的自衛権の行使の限定的な容認に向けた憲法解釈の基本的方向性を表明し、政府与党に検討を指示しました。

会見で安倍総理は、北朝鮮のミサイル開発などを挙げ、「国民の命と暮らしを守るための法整備が、これまでの憲法解釈のままで十分にできるのか検討が必要だ」と指摘しました。そして自衛隊の対処を可能にすべきケースとして、近隣の有事に日本人を輸送するアメリカの船の防護やPKO(国連平和維持活動)で他国の部隊が襲われた際の自衛隊による「駆けつけ警護」を例に挙げました。

また、自民党と公明党の協議に関しては、「与党協議の結果に基づき、憲法解釈の変更が必要と判断されれば、改正すべき法制の基本的方向を閣議決定していく」と述べました。

政府はこれまで憲法9条の平和主義の理念を踏まえ、集団的自衛権行使は許されないという見解を維持してきました。安倍総理の意向で行使を認める憲法解釈の変更に踏み切れば、日本の安全保障政策の大転換で、「専守防衛」の理念から逸脱するおそれもあります。

邦丸: 昨日夕方の安倍総理の会見について、佐藤優さんは「詩の朗読だ」とおっしゃいましたね。

佐藤優(以下佐藤): そうなんです。これは具体的に北朝鮮との関係で何ができるのかということに関しては、うんと乱暴なことを言うと、今回安倍さんが例示したものは、現在の枠の中でもできますし、解釈改憲でもできますし、あるいは憲法改正でもでき、やれと言えば、どれでもできるんです。まさにそういうグレーゾーンなんです。そこのところから拡げていこうとしているんですけど、最大の問題はやはり、安倍さんの憲法に対する感覚だと思う。

邦丸: 憲法に対する感覚。

佐藤: はい。首都大学東京の木村草太准教授、まだ34~35歳ですが、私はこの人が若手の憲法学者のなかでいちばん頭がいいと思っている。この人の理屈では、憲法には3つの要素があるということなんです。1つは法解釈、法制度。大日本国憲法とどうつながっているのかっていうこと。2つ目が国際的宣言。それから3つ目が国のカタチ。国柄とか国体とか文化を折り込むということですね。安倍さんの話というのは、この3つ目が中心なんですよね。日本の国がどういう国なのかということです。

結局、押しつけ憲法論を言うんだったら、明治憲法だって国民と関係ないところで官僚がつくって押しつけてきたわけでしょ。それからつくるときに外国人が関与していますよね。それなのになぜ今の憲法だけを押しつけ憲法と言って気に食わないいのかというと、それはGHQがやったからだ。どうしてGHQだったらいけないのかというと、それはやはやり戦勝国の決めたものだから気に食わないという心理を反映しているんじゃないか、というのが木村さんの分析ですけど、これは正しいと思うんですよ。

そうすると何が問題になるかというと、今まで法制局も政府も一貫して集団的自衛権を認められないという憲法解釈できていたわけですよね。それで決めてきたわけです。そういうことが政治の意向ですぐに変わるということを、果たして世界はどう受け止めるか。法治主義、法的連続性を軽視する国になったなあと受け止める。

それからもうひとつ、今の憲法はポツダム宣言、それから9月2日のミズーリ号の上での降伏調印、今の憲法、サンフランシスコ平和条約、この一連の流れ中で行われた国際的な宣言、国際約束なんですね。ところが、例えば憲法9条にしても、安倍さんの発言からは日本の「戦争はしませんよ」という一方的宣言だという受け止めがなされていることがわかる。こういうものを変更することで国際的にどういうことがあるのか、ここのところをぜんぜん考えていない。

それから集団的自衛権ですが、これはわかりやすいんです。もし邦丸さんが攻撃されたら、私が攻撃されたことと一緒。だから野を越え、山を越え、草の根かきわけ、地球の裏側まででも行って悪いヤツはやっつける。その代わり、私が攻撃されたら邦丸さん、地球の果てにいても来てくださいね、というのが集団的自衛権なんです。一部だけ限定的にやる集団的自衛権なんていうのはないわけですよ。

国際社会には「今、説明していることは集団的自衛権じゃないですよ」と説明し、国内的には「集団的自衛権ですよ」と説明しているわけで、まともに考えると頭がクラクラしてくるような話なんです。

今、集団的自衛権に踏み込むとはどういうことか。ウクライナ情勢が緊迫していますよね。アメリカがもし、ウクライナに対して軍事支援を行う、これこそ国際秩序を乱しているロシアがおかしい、ということになれば、第二次日ロ戦争の先端を開くということになるんですよ。

邦丸: うーむ。

佐藤: それぐらいの覚悟をしているのか。いくら「限定している」と言ったって、「集団的自衛権に踏み込む」と言えば、そういう解釈になるのが当然ですよね。

議論が日本の中でしか通用しないような議論になっている。禅問答にある「ウサギの角の先は尖っているか、それとも丸いか」――ウサギには角はないですからね――この種の議論になっていますね。だから、新聞を読んでも何が問題になっているのかぜんぜんわからないでしょ。

邦丸: その新聞各紙を読んでみて、今日、毎日新聞をちょっと読んでみたら・・・・・・。

佐藤: 毎日新聞はすごくバランスが取れていますよね。

邦丸: バランスが取れているかなあと思って読んでいたんですけど、わかりやすいのは、日本には戦争をするルールがないということなんですね。

佐藤: それは国際的にも、国連加盟国は自分たちの問題を戦争で解決したらいけないんです。例外が国連軍と旧敵国に対する場合なんですね。ですからいつも、「これは戦争じゃないんだ」という体裁を整えるんですよ。

邦丸: 佐藤優さんが寄稿されているものを読むと、まさにウクライナ情勢とが泥沼化しそうな状況になってきています。優さんが以前、ウクライナとロシアの争いは、毒ヘビと毒サソリの対決だとおっしゃいました。そんな情勢にあって、まもなく5月25日にウクライナ大統領選挙があるわけですね。

佐藤: その後も混乱は続きますからね。ウクライナ東部・南部は、この選挙をボイコットしますから。

邦丸: そうなってくると、そのウクライナ情勢が今、ロシアと欧米の代理戦争のような様相を呈し始めているときに、もし「日本は集団的自衛権の行使があるんだよ」と言った場合、アメリカ合衆国は今、それを非常に歓迎していますよね。「いや、べつに最前線に行かなくていいよ。後方支援してくれよ。後方支援のあり方もいろいろあるよ」ということになってきた場合、日本が第三国の了解を得てそこに武器を運ぶとか、武器じゃなくても食料を運ぶとか・・・・・・。

佐藤: カネを出すだけでもそうですよ。

邦丸: はい。そうなった場合、今度はロシアが日本のことをどう思うかいうと、敵国と見なす可能性があるということですね。

佐藤: もちろんです。そうなったらどうなるか。北方四島周辺で日本漁船をどんどん銃撃しますよ。沈めていきますよ。そして手当たり次第拿捕していく。もうそれが目に浮かびますよ。・・・・・・

文化放送「くにまるジャパン」2014年5月16日放送
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」
vol037(2014年5月28日配信)より

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