雑誌 ドクターZ
資本主義はお嫌い
民主の本質は左翼政権です

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 個人的には「何を今さら」という感想もあるが、支持率30%割れが見えてきた鳩山内閣について、「この政権って、実は社会主義なんじゃないの」という声が日々、高まっている。

 何しろ民主党は「日米中は正三角形」と主張する政治家が幹部を占めている政党だ(鳩山由紀夫首相、小沢一郎幹事長など。

 ただし鳩山首相は、例によって「必ずしも辺の長さが等距離ではない」などと言を左右にしているが)。

 資本主義の最右翼アメリカと、共産主義の最後の牙城である中国のどちらとも等距離の位置に日本がいるというのだから、これはやはり社会主義体制を意味しているのだろう。少なくとも、資本主義ではあり得ない。

 さらに言えば、昨年12月の小沢大訪中団は、民主党のスタンスが米中等距離というより、むしろ中国寄りであることを強く匂わせた。民主党政権が続けば、そのうち米軍を沖縄から追い出し、尖閣諸島に中国軍を駐留させると言い出しかねないという気すらする。悪い冗談で済めばいいのだが・・・。

 それはともかく、民主党の経済政策がどれほど左翼的かを見ていきたい。その前提として、まずは資本主義とは何かをおさらいしておこう。

 資本主義とは、経済は資本が中心となって動いているとする見方だ。資本家が社会に資金を投資し、それが利潤を生み出す。そこでは、労働サービスも一つの商品であって、労働市場で取り引きされる。労働力を商品として取り引きする人が労働者である。

 単純に言えば、世の中には資本家と労働者しかいない。しかし、労働者がいなければ資本は回り続けることができないし、資本家がいなければ労働サービスの対価を得られないので食べていけない。即ち資本主義社会において、資本家と労働者は、共存共栄の関係なのである。

 また資本主義は、資本家の財産権を認める私有財産制の下で民間企業が基本になって、労働市場を通じて雇用の調整が行われ、財・サービス市場を通じてそれらの価格や生産量が調整される。そうした取り引きは、契約の自由がないと十全に機能しないから、資本主義には自由が必要である。

 つまり、民間の自由な経済活動を確保するためには、政府の活動はできる限り小さいほうがいい。この意味で、資本主義は「小さな政府」と親和性が高い。

 この点については新自由主義・保守派の大御所でノーベル経済学賞受賞者のミルトン・フリードマンが『資本主義と自由』(1962年)の中で強調している。また、半世紀ほど前に著したその本の中でフリードマンは、政府が行うべきでないものとして、
(1)農産物の買取保証価格制度、
(2)輸入関税・輸出制限、
(3)産出規制、
(4)家賃統制、
(5)最低賃金・法定金利、
(6)産業規制・銀行規制、
(7)ラジオ・テレビ規制、
(8)社会保障制度、
(9)特定事業・職業の免許制度、
(10)住宅政策、
(11)徴兵制、
(12)国立公園、
(13)郵便、
(14)有料道路、
  を挙げている。

 一方、資本主義の対極にあるのが社会主義だ。資本家による生産手段を社会的に所有・管理することによって、生産物や富を社会に配分しようとする考え方である。そこでは、主要産業の国有化などが実施され、当然ながら政府の関与は大きくなる。つまり、「大きな政府」だ。

社会主義の下では、政府による再配分政策にも重点が置かれ、金持ちへの課税強化、社会保障の充実、教育や医療の無償化、労働市場への政府規制などが主張される。

 もちろん、これらの要素は資本主義と社会主義の典型例であって、現実政治は両者の間のどこかに位置する。だが、フリードマンが指摘した14項目によって、そのスタンスが資本主義寄りなのか社会主義寄りなのかをチェックすることができる。

考えが浅すぎる

 さすがに現在では時代錯誤の項目もある。実際、(2)(3)(4)はほとんど行われていないし、(5)の法定金利についても、金融自由化により金利規制はなくなった。ただし、最低賃金は現に存在するし、民主党はマニフェストに「最低賃金を引き上げる」と明記している。フリードマン基準によれば、まさに社会主義思想だ。

 資本主義社会における労働者の賃金は、人も仕事も様々だから、労使間で自由に決めるのが筋だ。仮に規制する場合でも、使用者(資本家)側が優越的な地位を乱用してはいけないといった程度の必要最小限にするべきである。

 政府が最低賃金を決めると、その基準を満たせない中小企業は人を雇えなくなる。他方で、基準より安い賃金でもいいからとにかく働きたいという人の自由を奪うことになり、結果として失業者を生み出しかねない。働き手を確保できない中小企業も淘汰されることになる。つまり、最低賃金の規制は無用どころか悪い政策の典型例なのだ。

 しかし社会主義体制の下では、温情主義が幅をきかせるから、政府が動かないと労働者は搾取され、虐げられる一方だと考える。だから、最低賃金を規制し、できる限り引き上げるのは良い政策となる。

 要するに、最低賃金制度は政権が社会主義かどうかを見極めるメルクマールであり、それは経済学者の共通認識だ。そして、その指標に従えば、民主党は紛れもなく社会主義政党なのである。

 そう言えば民主党は、一時期、企業の内部留保に課税する方向を示していた。おそらく企業が労働者から収奪しているという前提があるからだろう。つまり、労働者の取り分を示す労働分配率が、世界に比べて日本は低いという認識だ。しかしそこには、数字のマジックがある。

 実は、日本の労働分配率が世界標準より低いという確定数値はない。指標の取り方次第で、数字は高くもなるし、低くもなる。ところが社会主義者の脳内は、労働者は常に搾取される存在だと思い込んでいるから始末に負えない。

 日本はただでさえ法人税が高いのに、さらに内部留保にまで課税することになったら、日本の企業(資本家)は海外に逃げるしかなくなる。そうなると、最終的に困るのは労働者なのだ。

 社会主義者の困った点はここにある。労働者重視、分配重視のあまり、資本家と労働者が現実には表裏一体の関係であることに、思いが至らないのだ。現実社会では、企業も生活者も、生産者であると同時に消費者でもある。「国民の生活が第一」を実現するには、「企業イジメ」は逆効果だということを、民主党には是非学んでほしい。

 さて、フリードマンの14項目の中で興味深いのが、(13)の郵便と(14)の有料道路だ。これらに関しては小泉政権で郵政民営化と道路公団民営化が行われているのだが、民主党は郵政民営化の見直しによって、実質国有化を進める方針だし、高速道路も無料化によって道路公団民営化に逆回転をかけている。

 まず郵政を見ていこう。見直しは、民営化に反対した亀井静香郵政改革担当相が中心になっている。民間経営者の西川善文氏を追い出し、代わりに元大蔵事務次官の斎藤次郎氏を据え、郵政株を国が所有し続けるのだから、どう取り繕っても再国有化である。郵政の職員も、事実上の公務員に戻ることになる。

 これは大きな政府の復活であり、きっと以前のように「こっそりと税金投入」が行われることだろう。

 なお、フリードマンの14項目には、郵貯と簡保といった金融業務は含まれていない。そんな金融業務が国営であるはずがないのだから、当然だ。この点だけでも、民主党の郵政民営化が世界でも稀な社会主義的政策であることがわかる。

 次に高速道路。有料道路が無料になるのだから、フリードマン基準にも反しないと思うかもしれない。しかし、現代においては、社会主義思想が比較的強い欧州でも無料化政策は見直されている。なぜなら、無料化によって交通量が増えるとCO2も増えるため、環境への悪影響が問題視され始めたからだ。

 また、高速道路を無料にすると、高速道路会社は収入がなくなる。それを補うために税金で面倒を見るのだから、方向性は紛れもなく大きな政府である。

 もっとも、こんな疑問もあるだろう。そもそも小泉政権以前は、郵政も高速道路も国が運営してきたではないか。自民党政権こそが左派政権ではなかったのか、と。世界基準で見れば答えはイエス。外国から見た日本は、資本主義の国ではなく、「世界で最も成功した社会主義国」と冷やかされてきたものだ。

 それが、小泉政権でようやく資本主義国の仲間入りを果たしたと思いきや、政権交代によって社会主義国に逆戻りした――海外ではそう見られているのである。

 ほかにも、農家の戸別補償制度は、農業という一産業に肩入れする政策であって、まごうかたなき温情主義である。

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