官々愕々 医師と官僚「癒着の構造」
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5月11日から14日にかけて、朝日新聞が、診療報酬の「不適切」請求にまつわる厚生労働省と医師会などとの癒着問題について、3回にわたってスクープ記事を掲載した。集団的自衛権の報道でかき消されてしまった感があるが、医療をめぐる癒着と不正の構造が堂々と生き残っていることを示す重要な報道だった。

話は複雑で、指摘したいことは数多いが、ここではいくつかの事実関係を紹介してどうやって利権が守られるのかをみてみたい。

まず、厚労省の地方出先機関である全国7つの厚生局及び四国支局は、「不適切請求」の疑いがある8000の医療機関のうち、およそ半数を放置していたという。15%程度しか調査していない府県もあるというから驚きだ。不正請求の情報があるケースやすでに問題ありとして指導したのに医療機関側が従わなかったケースなど、保険料を取られている国民からみれば、すぐにでも乗り込んで不正請求した診療報酬を返せと言いたいと思うものばかりだ。しかし、厚生局はこれを今も放置している。

この記事を読んですぐに気づいたのは、独特な言葉の言い回し。そこには官僚の思惑がある。

たとえば「不正」請求の情報があるのに、「不適切」請求の疑いがあると言い換える。不適切だが不正かどうかはわからないと言いたいのだ。また、「指導したが改善がない」という言葉。本来は、指導など不要で、即お縄にすればよいはずだ。

健保組合側が証拠を揃えて調査を要求したのに放置された例まである。不正請求なのに診療報酬を返せと言わず、改善して下さいと「お願い」をしているだけなのに、対外的には「指導」というアリバイを作る。これで、何かやっているように聞こえる。実は、不正請求分の返還を求めるには調査ではなく「監査」が必要だが、監査は滅多なことではやらず、「調査」と「指導」でお茶を濁す。「調査」をして「指導」。それに従わなくても再「調査」。さらに続けても、まだ、「監査」。よほどのドジだけが役所のアリバイのために捕まることになる。

個別指導を行う際には、医師会や歯科医師会が指定した医師が立ち会うと厚労省の法令で決まっているのも驚きだ。当然ながら、立ち会う医師は、不正を認めないように立ち回るという。厚労省のルール自体が、医師のためのものになっている。

もちろん、医師だけではなく、官僚にも甘い仕組みになっている。医療費請求の適否を審査する仕事を請け負う社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会という2つの団体は、いずれも厚労省や自治体の天下りや現役出向の受け入れ先となっている。給与は公務員より高く宿舎も完備。事業仕分けで両組織の統合が提案されたが、厚労省は完全無視。法律では、人件費などの経費をそのまま審査手数料として請求できることになっている。2団体が見つける医療費の削減額はわずか600億円。一方、2つのシロアリ団体に払う審査手数料は1200億円。600億円のボッタクリだ。

さらに、国保連が審査をした後、市町村が漏れがないか行う再点検を、また国保連に委託している市町村が31都府県で存在することも判明。国保連は、自分で見落としたものを再点検して手数料をもらう。二重取りだ。

どこまでも医師と官僚のための仕組み。この仕組みの温存の見返りに、自民党は医師会などの政治献金と票を当てにしてきた。見事なまでの政官民癒着の構造である。

これから、規制改革会議がこの癒着の構造にどこまで切り込めるか、見ものである。

『週刊現代』2014年6月7日号より

原発の倫理学(税別価格:1400円)
話題作『原発ホワイトアウト』著者・若杉冽氏推薦! 「霞が関には古賀さんを隠れキリシタンのように慕っている官僚たちがいる。原発の裏も表も全部わかる必読書」

原発は「倫理的」に許されないエネルギーだという議論をすると、それは「感情的」あるいは「主観的」な議論であるというレッテル張りをされる傾向があります。経済論や技術論は受け入れられても倫理論は受け入れられないのが現状だと言ってよいでしょう。しかし、倫理の問題は、経済や技術の分野でも非常に重要な問題です。二人の元総理(小泉氏と細川氏)が期せずして脱原発を「人の生き方の問題」「倫理の問題」として語り始めたことは、極めて重要な意味があります。私が小泉氏や細川氏に期待するのは、大きな哲学、「脱原発の倫理観」を国民に提示し、国民的大議論を巻き起こすことです。議論の末、国民の大多数が新しい日本の生き方、「脱原発と再生可能エネルギーで、自然とともに生きる国日本」を目指すという共通の目標に到達すれば、その時初めて、脱原発が可能になるのだと思います。――<「はじめに」より抜粋>

※本書は2013年5月に先行発売した電子書籍『原発の倫理学 古賀茂明の論考』の内容を大幅にアップデートした上で再編集したものです。