【第14回】第六章 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の所得格差対策とは(後編)
~「安全保障」重視、「国土強靱化」政策の
実行が新たな「所得倍増」の道!~

【第13回】はこちらをご覧ください。

国民経済は繋がっている

本連載は今回が最終回になる。

本連載において、筆者は「所得とは何か?」「付加価値とは何か?」「GDP(国内総生産)の意味」「なぜ、日本の名目GDPが成長しないのか?」「税収の源泉は所得」「デフレギャップ」「インフレギャップ」「正しいデフレ対策」「インフレ率の定義」「経世済民」「実質賃金」「雇用の種類」「政府支出の中身」「経済成長の意味」「フィリップス曲線」

「安全保障」「インフラストラクチャー」「技術の継承」「築土構木」「エネルギーミックス」「貿易収支」「経常収支」「輸出依存度」「輸入依存度」「法人税減税」「対外直接投資」「GNI(国民総所得)」「規制緩和」「道州制」「グローバリズム」「ナショナリズム」そして「国富」と、改めて書き連ねてみると実に多種多様な指標やキーワードについて語ってきた。

上に羅列した各キーワードはそれぞれ別の話に見えるかもしれないが、どれを取っても、全てにおいて関連性があるというのが現実なのだ。

「日本国民の所得を倍増させよう」

と、言うのは容易い。とはいえ、実際に日本国民の所得を数年、十数年程度で倍増させようとした場合、上記「全て」の指標、キーワードの意味を理解しなければ、まともなソリューション(解決策)は生み出せない。無論、上記以外にも正しく理解する必要がある指標、キーワードは数知れない。

さらに重要なのは、先に述べた指標やキーワードの関連性について把握することだ。例えば、「税収の源泉は所得」と「技術の継承」は、一見、全く関係がない話に思えるが、実際にはそんなことはない。

土木・建築の技術の継承をするためには、伊勢神宮の例を出した通り、現役世代の技術やノウハウが若い世代に伝えられなければならない。そのためには、若い世代が現場で働き、先輩から様々なスキルを伝授してもらう必要がある。

若い人が働くということは、そこに確実に「所得」が生まれるということだ。所得が発生すれば、政府は税金を徴収することが可能になる。

より具体的に書いてしまうと、政府はいわゆるNEETから税金を取ることはできない(消費税のみが例外)。だが、NEET(現在は60万人もいる)の若者が現場で働き、ベテランから様々な技術やノウハウを吸収し、自らの中に蓄積し、一人前の人材に育っていけば、彼らが稼ぐ所得が増加する。所得が増えれば、当然の話として「所得を源泉」とする政府の税収も拡大する。国民経済は繋がっている。

あるいは、「道州制」と「安全保障」。切り離して考える人が多数派だと思うが、それは完全に間違いだ。道州制により地方間の競争が激化し、生産性が低い地域の経済力が低下した場合、日本国家全体の安全保障は低下する。

何しろ、道州制(字義的な意味の道州制)とは、各地方自治体が独立採算性を採るという話だ。生産性が低い道州の税収は小さくなる(生産性とは「労働者一人当たりの付加価値」を意味する。すなわち「労働者一人当たりの所得」と言い換えても構わない)。

税収が足りない道州は、インフラの老朽化などについて対処のしようがなくなり、地域は衰退し、人口流出を招く。人口が減れば、政府はさらなる税収減に見舞われ、もはやインフラ整備や公共サービス(警察など)についても支払う金がない、などという話になってしまう。

道州制により、人口が高生産性の地域(例えば東京)に集中し、地方が過疎化した場合、いわゆる市場原理主義の構造改革主義者たちは、

「それは、負けた道州の自己責任。同じルールで戦った以上、仕方がない話」

などと言ってのけるのだろう。この種の傲慢な考えを持つ人が増えたとき、我が国では「首都東京」や「太平洋ベルト地帯」で大地震が発生するのだ。何しろ、戦後の日本で大震災が発生したのは、社会党の村山富市内閣、民主党の菅直人内閣の時期なのである。政権の危機対処能力が低い時期を狙ったかのように、日本では大規模自然災害が発生する。

別に、オカルト的な話をしたいわけではなく、我々日本国民は常に「大規模自然災害」という非常事態を想定しつつ、日本列島で生きていくしかないという話だ。道州制で地方の経済力が弱まった頃を「見計らった」かのごとく、首都直下型地震、南海トラフ巨大地震が発生した日には、冗談抜きで国家存亡の危機だ。そのとき、地方の道州の日本国民は、懸命に東京や太平洋ベルト地帯を救おうとしてくれるだろう。とはいえ、経済力がなければどうにもならない。繰り返すが、国民経済は繋がっている。

ところで、「規制緩和」と「グローバリズム」を組み合わせたものが、ご存じTPP(環太平洋経済連携協定)である。TPPとは、要するに国境を越えた規制緩和のことなのだ。

日本がTPPに加盟し、たとえば砂糖(厳密には「粗糖」)の関税が撤廃されたとしよう。そうなると、沖縄の島々でサトウキビを生産している農家が、次々に廃業していくことになる。離島で生業を立てられなくなった以上、住人は次々に沖縄本島や鹿児島に移住していき、やがては「無人」と化した島々が増える。

すると、3年もすれば、無人であったはずの日本の離島に、中国の漁民が住み着いている。といった事態を、

「あり得ない」

などと切り捨てず、想定することこそが安全保障の肝なのだ。

自由競争で敗れた人は、自己責任。僻地から人口が流出しても、別に構わない。などと主張する人は、国家の安全保障の「あ」の字すら理解していない。我が国の隣に仮想敵国「中華人民共和国」が存在している以上、あらゆる経済政策は「安全保障」を意識して推進されなければならないのだが、果たしてどれだけの国民がこの手の「現実」を真剣に考えたことがあるだろうか。

筆者は昨今の「公務員を減らせ!」「公務員給与を削減しろ!」といった、ポピュリズム的な公務員批判には与しない。そもそも、我が国はOECD(経済協力開発機構)諸国の中で、韓国と並び「労働人口に占める公務員の割合」が最も小さい国の一つなのだ。

筆者は公務員ではないため、正直、公務員が多かろうが、少なかろうが、給与が高かろうが、低かろうが、どうでもいい。とはいえ、現時点における公務員削減や公務員給与引き下げには、明確に反対する(公務員の給与を引き上げろ、という話ではない)。

理由は、解雇された公務員や、給与を引き下げられた公務員が、必ず「消費」を減らすためだ。給与所得が減った公務員、もしくは給与所得を得られなくなった失業者が、消費を増やすなどということは百パーセントあり得ない。

【図6-3 2011年 労働者に占める一般政府雇用者の割合(単位:%)】

出典:OECD「Government at a Glance 2013」

消費を減らすことを決断した公務員、もしくは失業者は、果たして「何」の消費を減らすだろうか。もしかしたら、筆者の「書籍購入」を取りやめるという選択をするかもしれない。公務員給与を減らした結果、筆者の書籍が売れなくなると、「筆者の所得が減る」という話になる。

所得が減った筆者は、やはり何らかの消費を減らすという選択をするだろう。その時に「買われなくなる」製品もしくはサービスは、もしかしたら読者が勤めている企業の生産物かもしれないのだ。しつこいが、国民経済は繋がっている。

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