幻の深海ザメ「メガマウス」の解剖に3000人余りのサメ好きが集結!
メガマウスと筆者

夏のような日差しのゴールデンウィーク最終日、その巨体が解剖されるのを一目みようと全国から3000人余りのサメ好きが集まった。

ここは静岡県清水にある東海大学海洋科学博物館のエントランス前。たくさんの人だかりの中心にあるのは、4.46mのサメ。これはただの巨大ザメではない。幻の深海ザメ「メガマウスザメ」だ。2014年4月14日の駿河湾は、水温わずか15度。そんなまだひんやりとした春の海に、突如として彼女は我々の前に姿を現したのである。

3000人の前に姿を現したメガマウス@東海大学海洋科学博物館

由比の定置網漁

静岡県由比はサクラエビで有名な漁港である。その沖合800mに仕掛けられた定置網は、大きな富士山に見守られながら、日の出とともに水揚げが開始される。定置網漁は、季節によって漁獲される魚種は多種多様だ。仕掛けた網のボトム(底)は水深35m。深海魚が漁獲される水深とは到底思えない浅さだが、漁師によれば、今年3月に入ってからミズウオやユウレイイカのような深海生物が定置網に入りはじめたという。

今年、サクラエビの漁獲量が芳しくない一方で、14日の定置網は、タチウオ100kg、アジ600kg、ブリ一本、その他にイカなども水揚げされており、2日前の12日(土)から、漁獲量が格段に増えていた。日曜日は休漁日なので、メガマウスが入ったのは、12日(土)の水揚げ終了時刻の午前7時~14日(月)の水揚げ前の早朝5時の間になる。日周鉛直移動といって、メガマウスは夜になると餌生物を求めて深海から浅い水深まであがってくることが知られている。ということは、土曜日の夜中~その翌日の明け方ないし、日曜日の夜中からその翌日の明け方のどちらかに定置網の中に迷入したことが推理できる。

定置網というのは、沿岸域に仕掛けられた複雑な形状をしている網であるが、一口に定置網といってもその形状は様々で、企業秘密となっていることもしばしばだ。魚が一旦この網に入ると、その複雑な構造の故、外に出ることは容易ではない。

早朝、日の出前に定置網漁船は出港し、およそ10分強で漁場へ到着する。漁船上で漁師たちが網をたぐっていき、魚を一ヵ所に追い込んですくって船の上にあげる。網をたぐっていくにつれ、水面はばちゃばちゃと慌ただしくなる。網にかかった魚が網の底でぐっと押し上げられるからだ。たぐったときの網の重さや、はねる魚をみて、どのくらいの魚が入っているかを見れば、漁師はその網の中の様子をかなり正確に予測できる。

私はサメの研究をしていた学生時代に由比の定置網に乗せてもらい、この網をひく手伝いをしていた。毎回乗るたびに、見たことない魚や生物に出会うことができるので、学生時代のもっとも楽しみなイベントのひとつであった。一番印象に残っている生物は、オサガメだ。オサガメとはウミガメの大型種。手足を広げたら、6畳の部屋がいっぱいになるくらいの大きさの巨大なウミガメが目の前に現れたときの興奮は忘れられない。頭の高さだけでも30cm以上はあっただろうか。海の中には巨大生物がいるとは頭でわかっているものの、実物の迫力たるや大変なものだった。その実写版ガメラを凝視しながら、高鳴る胸の鼓動を今でも鮮明に記憶している。

この日、たまたま、この定置網漁船に乗船していた学生によれば、いつもと様子が違ったという。普段よりも格段に重い網をたぐりよせたら、おたまじゃくしのような巨大な頭がぬぼっと水面に顔を出したというのだ。オサガメよりもかなり大きい生物。見間違えるはずがない。これは幻の巨大ザメ、メガマウスだ。

定置網に対象漁獲物ではない大型生物がかかると、漁師はそれらを生きたまま海へ還す。しかしながら、メガマウスは研究例が非常に少なく、大変貴重なサメということで、朝7時に漁師さんのご協力により水揚げされた後、東海大学海洋学部へ10時半頃に搬入され、一旦冷凍保存した後に、5月6日に同大学の海洋科学博物館にて、一般公開解剖することが決まった。

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