読書人の雑誌『本』
『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』著:中沢弘基---詠み手と読み手

⇒著者、中沢弘基さんのインタビュー「なぜ生まれたのか? なぜ進化したのか? 科学史上最大の謎が今解き明かされようとしている!」も併せてお読みいただけます。 

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生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』著:中沢弘基 
価格:920円(税抜)amazonはこちら

机の上のエントロピーを極大にしたまま、拙著『生命誕生』(講談社現代新書)の初校ゲラを校正しています。四周は春めいて、桜に先んじてカタクリや翁草が咲き、去年四十雀が孵った巣箱に、今年は雀が枯れ草を運び込んでいます。図らずも生命の躍動する季に、〝生命誕生〟の書の出版準備をする巡り合わせになりました。

新書版ですから特段の装丁はありませんが、キャッチフレーズの入ったカバーがあって、そのゲラ刷りも届いています。書の内容をアピールするカバーの文とサブタイトルは、編集スタッフが考えました。その中に、「地球史から読み解く新しい生命像」の一文があり、この〝生命像〟には、科学の書らしくない人文的な語感があります。

著者は、「生命誕生は地球史の必然である」とするオリジナルな生命起源論を、ちゃんとした学術論文を根拠に展開しました。46億年前、〝火の球〟だった地球が、宇宙に熱を放出して冷却し、地球のエントロピーの減少することが、生命の誕生やその後の生物進化の原因であるとして、地球の水素や炭素から生命が発生するまでを具体的に論じました。そんな〝新しい生命起源論〟ですから、それを広く次世代に伝えて、誰かがさらに一歩生命起源の謎に迫れるように、引用文献リストも添えました。正真正銘、科学の書です。

しかしそんな科学書であっても、異なる素養の編集スタッフ達が読むと、〝生命像〟と言うべき、別の何かが読み取れるようです。

似たような事例は、わずか十七文字で思いを表現する、俳句の場合にはよくあります。それほどでもない句が、すぐれた〝読み手〟によって、〝詠み手〟の意図より深い意味を持つ名句と解されることがあるからです。十七文字の〝語間を読む〟のには、素養や人生の力量が反映するのです。

科学論文や科学書は、できるだけ少ない語数で事実や論理を直截に記述することを旨としますが、それは冗長な文による曖昧さを防ぐためです。でも俳句や短歌ではありませんから、必要であれば正確に表現するための語数に制限はありません。英文であれ、邦文であれ、意図をいかに正確に、広い読者に誤解を生じさせずに伝えられるか、は論理構成を含めて著者(詠み手)の力量です。