メディア・マスコミ
「吉田調書」で特報を放った朝日はエゴスクープと決別できるか?
5月20日付朝日朝刊の1面トップは「吉田調書」スクープ

「原発 命令違反し9割撤退」---。5月20日付の朝日新聞朝刊1面に大見出しが躍った。

記事によると、東日本大震災の4日後、東京電力福島第一原発にいた所員の9割が待機命令に違反し、10キロ南の福島第二原発へ撤退していた。その後、放射線量が急上昇しているという。

記事の土台になっているのが、朝日が独自に入手した「吉田調書」だ。第一原発所長で事故対応の責任者だった吉田昌郎(まさお)氏が政府事故調査・検証委員会の調べに答えた「聴取結果書」のことである。記事は、待機命令違反によって事故対応が不十分になった可能性を指摘している。

これは典型的な「エンタープライズスクープ」だ。国民に知らせる必要があるにもかかわらず、放っておけば決して表に出てこないニュースを掘り起こす形の報道のことだ。調査報道とほぼ同義であり、記者会見やプレスリリースに頼る発表報道と対極にある。

朝日は調査報道に軸足を移しているのか

ジャーナリズムの最高の栄誉である米ピュリツァー賞を見ると、最高格の公益部門受賞作は例外なくエンタープライズスクープだ。今年の同部門受賞作は、米国家安全保障局(NSA)による情報監視活動を暴いた米ワシントン・ポストと英ガーディアン両紙の報道。両紙は、NSAの元職員エドワード・スノーデン氏から提供されたNSA機密文書を土台にして特報を放った。

国家が不開示を決めている文書を入手して真実を伝えようとしている点では、朝日による吉田調書報道と似ている。報道後に政府が内容の真偽確認を避けている点でも同じだ。吉田調書について、菅義偉官房長官は20日の記者会見で「政府が保管しているものと内容が一致しているかどうかを申し上げることはできない」と語っている。

もちろん単純比較はできない。NSA文書は国家最高機密であり、その暴露は犯罪行為であるのに対し、吉田調書は吉田氏の意向に配慮して不開示にされているにすぎない。

それでもエンタープライズスクープの基本的定義に両者とも当てはまることに変わりはない。米ニューヨーク大学ジャーナリズムスクールの教授でジャーナリズムの論客ジェイ・ローゼン氏は「エンタープライズスクープは記者が独自に掘り起こしたニュースであり、記者の努力がなければ決して明らかにならなかった特報のこと」としたうえで、「これこそ本来のスクープであり、特ダネを狙うときにすべての記者がお手本にしなければならない」と自らのブログ上に書いている。

福島原発事故の報道では、主要紙は「発表報道のオンパレード」との批判を浴びた。その反省もあり、朝日は調査報道に軸足を移しているのだろうか。紙面を見る限りは、調査報道重視の姿勢はうかがえる。

吉田調書報道では、朝日は通常の紙面と並行して、デジタル版の特設ページを使って調書の内容を連日詳細に分析していく予定だ。調書はA4判で400ページを超える分量になっており、限られた紙面ではとても内容を報じきれないからだ。担当記者は調書の分析にどれだけ時間をかけたのか明らかにしていないが、写真などビジュアル面も含めデジタル版の構成を見ると相当な事前準備期間があったことをうかがわせる。

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