大塚英樹が名経営者の極意に迫る 第2回
近藤史朗(リコー会長)
「上司は部下に任せて、部下の役に立て」

『会社の命運はトップの胆力で決まる』(大塚英樹)より

上司は部下の役に立て

近藤史朗(こんどう・しろう) 1949年、新潟県に生まれる。新潟大学工学部機械工学科卒業後、73年リコー入社。開発リーダーとして画期的なデジタル複合機「imagio MF200」を開発し、大ヒットさせる。画像システム事業本部などを経て、2004年MFP事業本部長、05年取締役専務執行役員、07年4月より社長。13年4月より会長。

優秀企業のトップほど、リーダーのあり方を厳しく追求する。チーム力弱体化による競争力低下を危惧するからだ。

日本企業はチーム力で世界を相手にしてきた。それが、グローバル化が進むにつれ、日本は社会全体が自己責任、個性重視と「個」に重きを置くようになり、組織やチームにあっても常に「個」の存在を強調してきた。その結果、チーム力は弱まる傾向にある。

競争力の強い企業はチーム力によって支えられている。さまざまな集団がスクラムを組んでチームワークを発揮するからこそ、1プラス1は3にも5にもなる。

優れたリーダーの共通項は、メンバーのことを心から気にかけて、彼らの成長と成功を願う人であること。さらに言えば、率直で誠実で楽観的で人間性にあふれている。

では、リーダーの役割は何か――。その育成に腐心してきた近藤は語る。

「リーダーは目標とそれを達成することの意義を部下に示し、全員の気持ちをひとつにして目的を成し遂げていく。メンバーから決断を求められたなら、自らの意思と責任において決断を下す。間違っても、『多数決で決めよう』などと言い出してはならない」

持論は「リーダー教習所論」。職場はリーダーとしてステップアップしていくための“教習所”という側面がある。考え行動した結果に誤りがあっても、臆することはない。上司が部下の成長を促したいと考えるならば、あなたの挑戦を必ずサポートしてくれるはずだ――。

「私はさまざまなことに挑戦してきた結果、多くの失敗を経験した。失敗から学び、次につなげていくことが大事。挑戦のないところに失敗もない。失敗がなければ学習することも、自分を成長させることもできない」

近藤が最重視するのは、リーダーを育む上司の心構えだ。

「上司は大きな存在です。理解ある上司の下でこそ頑張ることができるし、自分の能力を知ることができる。上司は部下の可能性を引き出し、成果を上げさせて、それを正しく評価できる存在でなければなりません」

注目すべきは、「上司は部下の役に立つ存在でなければならない」という“上司論”。現場は常に部下の向こうにある。営業の場合、課長から見たら部下たちの向こうに顧客が、工場の場合、部下たちの向こうに技術や商品がある。つまり、部下は直接顧客を知り、変化を知る立場にある。変化に対応するには、部下をサポートしなければならない。

そんな風土が浜田広社長時代(83~96年社長)から続いていたが、近年、希薄になってきている。近藤が警鐘を鳴らす理由はそこにある。

社員に対する叱咤激励も、危機感からだ。小さな成功で傲慢にならず、緊張感を持続する。原則を維持する一方、常に進化し、創造的な改善と適応によって手法を変えていく。会社の目的を明確にする姿勢と謙虚にものを学ぶ姿勢を貫く――。チーム力を強くしたいという一念からである。

「社員一人ひとりが役割を自覚して動くことが大事。一人でも役割を果たさない人がいると、チームの成果は上がらない。リーダーは叱ることも大事だ。問題点を指摘し、反省を促し、同じことを繰り返さないように諭す。前提は愛情を持つことです」

リーダー育成法の極めつけは「任せる」こと。効果は過去の体験で実証済みだ。デジタル複合機のリーダーとして成果を上げることができたのは、「上司が任せてくれたからだ」と明かす。

「最近のリコーは、現場に真実があることを忘れ、本社のガバナンス(企業統治)を利かせるために報告書を提出させたりしている。現場に行けば済むことなのに・・・・・・」

企業の衰退は、たいてい自らが招いたもので、成長もたいていは自らの力で達成できる。そう、近藤は確信する。

『会社の命運はトップの胆力で決まる』
著者:大塚英樹
講談社刊 / 定価:1400
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グローバル企業化が進む日本企業。巨大化すればするほど、トップを見れば浮沈は分かる。古くて新しいキーワード、「器」に注目せよ!

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【著者紹介】
大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』(以上、講談社)『「距離感」が人を動かす』『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。
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