大塚英樹が名経営者の極意に迫る 第4回
泉谷直木(アサヒグループホールディングス社長)
「グローバル・リーダーの育て方」

『会社の命運はトップの胆力で決まる』(大塚英樹)より

厳しい前線で人は鍛えられる

泉谷直木(いずみや・なおき) 1948年、京都府生まれ。京都産業大学法学部卒業。72年朝日麦酒(現アサヒビール)に入社。広報部長、経営企画部長、東京支社長などを経て、2004年常務、09年専務、10年社長に。11年7月グループ持株会社アサヒグループホールディングス社長に。若い頃から村井勉、樋口廣太郎、瀬戸雄三ら歴代社長に直接仕え、薫陶を受ける。独自の「バリュー&ネットワーク経営」でグローバル化を牽引。

リーダーを育てる最善の方法は何か――。
かつて私が取材してきた500人のトップに共通した答えは、「厳しい“前線”に送り出してこそ、人は鍛えられる」であった(拙著『社長は知っている』講談社)。

リーダーを育てるノウハウなどない。ただ社員にチャンスを与えるだけである。そのチャンスをものにした人たちだけが責任のある地位に就き、やがてリーダーに育っていく。

泉谷も、与えられたチャンスを最大限に活かしてリーダーになった。

泉谷も、もとは一介の社員に過ぎなかった。それが今日、社長を務めているのは、彼に専門知識があるからでも、経営学や法学に精通しているからでもない。周囲の力を集めて、なにがしかの事柄を実現してきたからなのである。つまり泉谷は“人間としての力”があるということだ。

管理職以上になると、専門知識よりも、状況を理解し、人の話を聞き、やる気を起こさせ、物事を明確にし、大勢の力を結集させる能力が問われる。

そんな泉谷が今、最も心を砕いているのが、次代を担うグローバル・リーダーの育成だ。製造業にとってグローバル化はもはや選択肢ではなく、必須条件となっている。同社も、ここ数年積極的な業務資本提携やM&Aにより、中国、オーストラリア、マレーシア、インドネシアなどアジア大洋州での事業を展開している。今後は特に東南アジアで事業を集積させ、ネットワークを確立する方針だ。

同社の本格的な国際化はまだ緒に就いたばかり。それだけに、国際感覚を持つリーダーの早期育成が急務である。

リーダーの育成――。泉谷は社長就任以来、着々と手を打ってきた。2010年には役員クラスを対象にした社内大学を創設。執行役員、理事の中から数十人を指名し、経営知識を身につけると同時に、国際感覚を磨き、経営者としての「 志 」と「信念」を確立するためのプログラムを受講させている。12年10月からは、その次の世代を対象としたリーダー養成のプログラムも開始している。

圧巻は、若手を海外に派遣する「海外武者修行」(グローバル・チャレンジャーズ・プログラム)。希望者を募り、選抜された社員を同社の海外拠点に半年から1年程度派遣するというもの。

「3年前から毎年10人ほど、海外に派遣して、リポートを提出させています。12年は全員が入社2~3年目の若者でした。社内には、日本のビジネスもわからない若者を出しても育成効果が上がらないと異論を唱える者もいますが、私は『なぜ、日本のことが全部わかっていないといけないのか。グローバル企業を目指すなら海外で勉強し、仕事を覚えればよい』と言っているんです」

厳しい前線に送り出してこそ人は鍛えられる。泉谷の信念に基づいたやり方だ。
さらに、管理職以上には英語の試験をも課している。試験は、一般社員にも自由参加させているが、毎年500人以上が受験しているという。

泉谷は管理職たちに、勉強の必要性を訴えている。

「ラインの長には担当分野だけでなく、広く経営全体を勉強してもらう。そのうえで会社にどう貢献するか。自分の強みを発見することが大切。そのためには徹底的に勉強しなければならない。みんな、これが大変なストレスになると言う。ならば、勉強も仕事ももっと徹底してやれ、と。ストレスを解消するには、徹底的に仕事をして、目標を達成する、あるいは徹底的に勉強してわかるようになるしかない」

リーダーは、部下のモチベーションを高め、能力を引き出さなければならない。

「まず、“部下はデキる”と思うことです。すると、部下は自発的に自分の頭で考え、行動を起こし、潜在的な能力を発揮するようになります」

『会社の命運はトップの胆力で決まる』
著者:大塚英樹
講談社刊 / 定価:1400
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グローバル企業化が進む日本企業。巨大化すればするほど、トップを見れば浮沈は分かる。古くて新しいキーワード、「器」に注目せよ!

社長の顔が見えにくい現代。実は、成否を左右しているのはリーダーの「胆力」。組織はトップの、リーダーの器以上にはなれません。数字ではなく、トップの器を見たほうが、その会社・組織の未来の姿を確実に当てられます。本書では、500人以上のトップリーダーへの密着を30年以上にわたって続ける著者が、トップの人物、哲学、成功術をはじめ、その「器」に迫ります。現代の成功する経営者を「器」という観点から見れば、悩めるビジネスマン、管理職は自分に何が足りないのかを理解できます!
【著者紹介】
大塚英樹(おおつか・ひでき)
1950年、兵庫県に生まれる。テレビディレクター、ニューヨークの雑誌スタッフライターを経て、1983年に独立してフリーランサーとなる。以来、新聞、週刊・月刊各誌で精力的に執筆活動を行い、逃亡中のグエン・カオ・キ元南ベトナム副大統領など、数々のスクープ・インタビューをものにする。現在は、国際経済を中心に、政治・社会問題などの分野で幅広く活躍する。これまで500人以上の経営者にインタビューし、とくにダイエーの創業者・中内功には1983年の出会いからその死まで密着を続けた。著書には『流通王――中内功とは何者だったのか』『柳井正 未来の歩き方』(以上、講談社)『「距離感」が人を動かす』『続く会社、続かない会社はNo.2で決まる』(以上、講談社+α新書)などがある。
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