大塚英樹が名経営者の極意に迫る 第6回
樋口武男(大和ハウス工業会長兼CEO)
「カンを理論で練り上げる」

『会社の命運はトップの胆力で決まる』(大塚英樹)より

カンが先で、理論は後

樋口武男(ひぐち・たけお) 1938年、兵庫県出身。関西学院大学法学部卒業後、63年大和ハウス工業へ中途入社。猛烈な営業力で活躍し、93年大和団地社長に。2001年同社が大和ハウスに吸収合併され、社長に就任。04年より現職。著書に『熱湯経営』(文春新書)などがある。

持続的に成長を遂げる企業の経営者に共通するのは、論理的であることだ。自分の行った一つひとつの意思決定について、実に論理的に説明ができる。理由を突き詰めて考えて、簡単に議論を断念しない論理性がある。

樋口も同様である。

「創業者・石橋信夫オーナーはよく、“カンが先で、理論は後や”としきりに言われた。初めに理論ありきで理論ばかりこねまわしていては、創造的な事業は生まれないと」

石橋の言う「カン」は山勘ではない。人、書物、メディアから得たさまざまな知識・情報・アイデアを分析し、“先を読む”ことで直感的に感じ取る能力である。

カンで得た知識を理論で練り上げ、調査で分析し、脈があると判断して興した新規事業が流通店舗事業であり、会員制のリゾートホテル事業であり、ホームセンター事業であった。

いずれも業界の常識、通説を破った革新事業だ。

樋口も先を読み、考え抜くことで独自の論理を形成してきた。支店長時代、営業には商品を売る販売と資材を仕入れる購買があると考え、この2つの営業力を同時に高めないと収益は上がらないと唱えた。「購買も営業である」という概念を植えつけた日本最初の支店長だった。

さらに、新規ビジネスは論理的であることを実践した。特建事業部担当の常務時代、樋口が立ち上げた「シルバーエイジ研究所」。超高齢化社会を見据え、ソフトを構築すれば独自事業として成長できると考えたのだ。独自のノウハウの蓄積により、医療介護施設分野は事業の大きな柱に育っている。

さらに、樋口がトップダウンで総合技術研究所に商品化を推進したのが「インテリジェンストイレ」である。自動的に測定器で尿糖値を検査し、トイレの壁と床には体脂肪計と血圧計を組み込み、血圧、体重、体脂肪もチェックしてくれるというもの。今後の事業は、社会が強く求めるものでなければ成立し得ないと考えている。

経営改革も、論理的な考え方に裏づけされている。典型例は事業部制廃止と支店制の導入である。

同社には住宅事業部のほか、流通店舗、集合住宅など5つの事業本部があり、その傘下の営業所が支店内に設けられていた。所長の人事権は支店長になく、事業部長が握っていた。そのため所長はもちろん、支店長も事業部長や役員を見て、“ヒラメ”になっていた。

考え抜いた結果、支店長に権限と責任を与える支店制に転換した。既成概念から脱却した日本最初の「支店制」である。指揮命令を「社長―支店長―最前線」と変え、本社の役割を事業所に対する支援スタッフであると定めた。この改革で、スピード経営、フラットで風通しの良い組織の構築、責任の所在の明確化、セクショナリズムの排除による顧客情報の共有化の実現を目指した。

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