佐藤優の読書ノート---時間的に制約のあるテレビワイドショーではコメントが不可能なホンモノの国家論を展開する、木村草太著『テレビが伝えない憲法の話』
佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」 vol036 読書ノートより

読書ノート No.111

木村草太『テレビが伝えない憲法の話』PHP新書、2014年4月

私が現在、いちばん注目している憲法学者は、木村草太・首都大学東京准教授だ。論理構成が緻密であるだけでなく、教養の幅が広い。何よりも重要なのは、木村先生が、国家の本質が「悪」であるということをよくわかっていることだ。憲法96条の改憲条項緩和論者に対する木村先生の批判は、強い説得力を持つ。

<では、「過半数」改憲派は、どのような根拠を挙げているのだろうか。続いて、この点を整理し、検討をしてみよう。96条改憲論の主張は、概ね四つに分類できる。

第一は「国民は信頼できる(からヘンな改憲案が出るようになっても大丈夫)」という主張。第二は、「現行憲法の制定過程に問題がある」から、改憲をしやすくすべきだ、というもの。第三は、「憲法96条の内容は、諸外国の改憲手続きより厳しいから、諸外国の水準に合わせるべきだ」というもの。そして第四は「『国民』が改憲を望んでいる時に、3分の1ちょっとの国会議員の意思が障害になってはならない」というものである。

このうち、第一の主張は、橋下徹氏が好む議論である。橋下氏は、しばしば、「96条改正反対派は、国民をもっと信頼すべきだ」と言う(毎日新聞平成25年5月3日インタビューなど)。

しかし、国民を信頼できること、つまり「ヘンな案が出ても否決されること」は、「ヘンな案を提出してよい」理由にはならない。決裁権を持つ上司がTOEIC945点だからといって、アメリカでの営業を担当する部署にTOEIC50点の人を配属してはならないのと事情は同じである。それとも、橋下氏は、そういう場合でも、上司が信頼できるから、50点の人を配属しても大丈夫ですよ、と言うのだろうか?

「3分の2→過半数」を主張するなら、「3分の2」よりも、「過半数」のほうが良質な改憲案を作れるという根拠を示すべきである。問題は、改憲案を作る手続なのに、それを決済する国民投票の信頼性に話をズラすのは、論点のすり替えも甚だしい。

また、第二の主張も問題外である。そもそも、制定経緯をどう思うかは、憲法の「内容」となんら関係がなく、全く改憲の理由付けにならない。制定経緯が気に食わないという主張は、逆に言えば、「内容についての文句はない(制定経緯ぐらいしか文句が言えない)」ということだろう。そうすると、それを理由に改憲手続を変更するのは、全くスジが通らない。

では第三の主張はどうだろうか。日本国憲法の改正手続は、諸外国に比べ厳格にすぎるのか、検討してみよう。・・・(以下略)>

まさに、「15秒でコメントしろ」というような制約のあるテレビのワイドショーでは、展開することが不可能な、ほんものの憲法論、国家論が展開されている。

このテーマについて深く知るための「連読」3冊
・奥平康弘/木村草太『未完の憲法』潮出版社、2014年
・佐藤功『日本国憲法概説』学陽書房、1996年
・佐藤幸治『憲法』青林書院、1995年

佐藤優直伝「インテリジェンスの教室」vol036(2014年5月14日配信)より

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