「20世紀までは、カリスマ経営者が『オレについてこい』式の経営をやっていましたが、21世紀はそれでは乗り切れない。社員一人ひとりが共有された目標に向かって自発的に動く経営でなければいけません」
上田は語る。
2002年にファミリーマートの社長に就任してからというもの、上田が心を砕いてきたのは、社員一人ひとりが自分の頭で考え、自分の責任で行動する、“主役は社員”の経営環境づくりだった。
上田が現場の人たちとの交流を図る「社長塾」を始めたのも、それを具現化するためだ。
「社長の役割は社員にうまく使われること。社長塾は、社長と現場の社員が同じ土俵で一緒に考える“場”として設けたのです。そこでは私自身も、社員から学ぶ。社員の提案、課題、苦悩を聞く。
あとは会社としての対応を考え、施策を講じる。結果的に、私は社員に使われたことになる」
企業を変える主体は一人のカリスマ経営者ではなく、No.2だ。それも、組織の肩書としてのNo.2ではない。
トップの参謀役として経営ビジョンの具現化に奔走する一方、トップに意見を具申し、さらにはトップとミドルのパイプ役を果たし、社員と向き合うことでモチベーションを上げ、自発性を引き出す人――。
実は、ファミリーマートには、そんな“No.2”的役割を果たす社員が340人存在する。「ファミリーマートらしさ推進活動」の本部中核委員である。
「らしさ推進活動」は、「社長塾」で社員の提案から生まれた活動で、2005年に開始。目的はブランド価値の向上で、テーマは加盟店・社員の生きがい、モチベーション、顧客満足、社会貢献・・・・・・と幅広い。
ちなみに、12年度の活動は、社長が賞賛や感謝の気持ちを「カード」に書き、相手(社員や店舗)に贈る「賞賛制度」を開始したほか、地域とのつながりを深めるため、暑い盛りに全国各地の店舗で地域の人たちに参加してもらって打ち水を行う「全国一斉打ち水デー」、店舗の中で「寄席」を行う「ファミマ@ほーむ寄席」などを実施している。
推進活動の旗振り役の中核委員は、社員の自発性を引き出すNo.2的な役割を担う。
「推進活動にはマニュアルはありません。自ら感じ、気づき、動く活動です。この活動で社員のモチベーションは高まり、部門間の壁も低くなりました。上から指示された活動では『やらされ感』があり、モチベーションは上がりません」
推進活動から生まれたもののひとつに、小冊子「ほのぼのホスピタリティ集」がある。この中には、店がお客に感謝されたこと、喜ばれた事例が載っている。たとえば、「迷子の子供を家まで連れて行った」「ストーカーに追われていた女性を事務所に匿った」「店の前でエンストをおこした車の修理を手伝った」など、さまざまな事例を取り上げている。
上田は、これらをいろいろな機会に表彰している。すると他の加盟店も、「やってみよう」とトライする。
推進活動を開始して2年目、上田に若い女性のお客から手紙が来た。
送り主は、20歳代前半の女性で、生きる気力を失いかけていたという。
〈そんな夜、ファミリーマートに入ると店長が笑顔で「いらっしゃいませ!」と目を見て声をかけてくれた。やがて店長が「奥の事務所へ行きますので、何かあったらお声をかけてください」。レジへ行くと、明るい声で、再び「何かお手伝いできますか? 元気だしてください」とまで言ってくれた。
支払いを済ませると、今度は「頑張ってください」。ドアを開けた時も「ありがとうございました。また、いらして下さいね」という。店長は、自分と同世代なのに、深夜遅く、明るく元気な声で自分のことを気遣って励ましてくれた。うれしかった。私は死ぬのを思い止まり、生きようと思った〉――。
上田の“社員が主役”の経営への挑戦は続く。